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いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね? 上条「何か日が当たるようなったなここ?」美琴「え? ええ、そ、そうね、来た時より明るくなったわね」上条「んー。つう事はあれか? 何か期待されてるって事なのか? 俺たち」美琴「え? さ、さあどうかしらね」美琴(期待って……。一体何期待されてるっての!? 大体、いちゃいちゃって、やっぱ手ぇ繋いで公園歩いちゃったとかそー言う事なのかしら……)『ジ……(上条の右手をガン見)』上条「何見てんだ御坂?」美琴「は……? え、えええ、えーと……。あは、あははははは……、取り合えず、えいっ!」『バチッ』上条「うおっ!? 危ねぇ! 何しやがんだ急に、このビリビリ娘はっ!」美琴「ビリビリって言うなってんでしょうが、このバカァァァアアア!!」上条「おまっ! 電撃飛ばしといて今度は逆ギレですか!?」美琴「何よ、ちょっと電撃飛ばしたくらいで一々ギャーギャー騒ぐんじゃないわよ、小さい男ね! どぉーせその右手のおかげで効きゃしないんだからどぉでもいいでしょうが!!」『ダンダンッ!(足踏み)』上条「被害を受けた上に非難まで受けるとは……。ふ、不幸だぁ……」『ガク……』美琴「フンッ。(ど、どうやら誤魔化せたみたいね……)」上条「あー……、カミジョーさんは今ので非常にショックを受けました。ですので、今日はこのまま帰ってよろしいでしょうか? ええ、いいですよ。はいそうですか、では皆さんさやうなら……」美琴「コラコラ。アンタは何勝手に締めくくって帰ろうとしてんのよ? 私はどーすんのよ? わ、た、し、は」上条「お前も帰ればぁ? ハァ……」美琴「あ、ちょ、もうっ! ちょ……とぉ、ま、ち、な、さ、い、よぉ……」『ぐぐぐ……(上条の腕を掴んで踏ん張る)』上条「何だよ御坂……。今日のカミジョーさんは傷心旅行に出たいくらいブルーなんですのよ? ただ傷心旅行に行く金なんかこれっぽっちも無いから、取り合えずスーパーの特売にでも行ってこようと思ってるんですがね?」美琴「そ、それって私より大事なの!? (い、言っちゃった!?)」『カァ……ッ』上条「はあ? あの……、仰っている意味が良く判り兼ねるのですが?」美琴「…………」上条「あの……、御坂?」美琴(これ以上言っちゃダメ! 私が期待しちゃう! 私がコイツに期待しちゃうからっ!! と、とにかく、とにかく何か言わないと……)上条「もしもーし」美琴「え、あ、え、えーと……ね。その、あの、何て言うか……」『モジモジ……』上条「ああーっ!!」美琴「ふえっ?」『ビクッ』上条「御坂!!」『ガシィィッ!!(美琴の両肩をホールド)』美琴「ハイッ!!」『ビクッ』上条「また『ゲコ太』か? そうなのか? そうなんだな?」美琴「え! えぇ!?」上条「やっぱりそーなんだなー。おかしいと思ったんだ。お前がこんな変な企画にホイホイ乗ってくるなんて。考えてみたら前回の罰ゲームん時もそうだった。その前は、海ば……ま、あれはいいな。あれはノーカンだな。ノーカンノーカン」美琴「あ、あの…」上条「お前ホントゲコ太好きなんだなー。よし判った! 他ならぬ御坂の頼みなら聞いてやらない事も無い事も無いの反対だからアリだ!!」美琴「え……、ちょ、ちょっと……」上条「インデックスの事では、随分と借りがあるからな。あん時は罰ゲームやら、その後のごたごたやらですっかりうやむやになっちまったけど、俺は忘れてたわけじゃ無いんですよ?」美琴「そ、そんな……私は別に貸したなんて……」上条「じゃ、要らないとか? 流石見た目通り太っぱ――」美琴「それ以上言ったら許さないわよ」『ゴゴゴゴ……』上条「ひゃい!?」美琴「フン」上条「ハァ……、で、どうすっかねこれから」美琴「え?」上条「やっぱあれかね? いちゃいちゃの究極っつとABCとかになるんかね?」美琴「ハイ! 先生!」『ビッ』上条「はい、御坂君」美琴「AとかBとかCって、何?」上条「あ、あ……」美琴「何でそこで遠い目すんのよアンタは?」上条「ぅぅぅ……。ごめん、別の事考えっから許してくれ!」美琴「ほほ……う……」上条「な、何っ?」『ビクッ』美琴「私に言えない事、な訳ね?」上条「あ、あ……、え、え……」『タラ……(冷や汗)』美琴「ゆったんさい。先生怒らないから」上条「とか言って怒るじゃん。俺の経験則から言って、それ言って怒らなかった人皆無――」美琴「じゃ、判るわよねぇ? 言わなくても怒るって……」『ギロッ』上条「ひっ!? ふ、ふこ、不幸だッ」美琴「男なら覚悟を決める。ほら、さっさと全部吐いて楽になったらどうだ?」上条「何? その電気スタンド俺に向ける様なポーズ? べ、弁護士呼んでくれよ刑事サン!? こ、この人暴力振るう気だよ! 自白強要だよ!!」美琴「は、や、く、い、えっ、て、の!」上条「痛ッ!? 痛い痛い!! 暴力反対!! つねるの禁止!! 人類みな兄弟ッ!! 痛ッ!! 喋る、喋るからつねるの止めて!!」美琴「最初っから素直にしてりゃ痛い目見ないで済んだものを……」上条「(こえーよ御坂、きっとコイツの前世ってナチスのSSか何かだよ……)」美琴「誰が第三帝国の手先ですって? 馬鹿言ってないでさっさと白状する」上条「ぅ。じゃ、怒ったり驚いたりすんなよ。暴力も禁止だからな!」美琴「アンタに隠し子がいるって聞いても取りみだしません」上条「いや、それは驚こうぜ――じゃ、話すけど、ABCってのは恋愛の順序を顕わしたものなんだけど……」美琴「うんうん」上条「ABCは3段階の順序を表してるんだ」美琴「それでそれで」上条「え……。まず、A。これがキス」美琴「うん。Aがキス。……、…………」『ボンッ』上条「ほらぁ。またふにゃぁか? いいぞ、大丈夫だ、問題無い。(その方が俺も助かる)」美琴「たひっ、たひじょぶだから、つづけへ」上条「うっ。じゃ、気をしっかり持てよ」美琴「ふ、ふひゅん」上条「(大丈夫かコイツ)じゃ、Bな。ペッティング。Hの前戯とか――」美琴「あう゛」『ブシュー』上条「み、御坂っ!!」美琴「らいじょーぶ、らいじょーぶよー」上条「はぁ、これじゃ何時ゲコ太ゲット(いちゃいちゃ)出来るか判んねーなー。ってか出来るのか?」結局Bまで聞いた所でダウンした美琴は、上条さんの膝枕で、上条の上着を掛け布団代わりにお休み中。一方、上条は、そんな美琴の寝顔を時折覗き込みながら、色々と思案中です。上条(何か妙に熱い視線を感じるなー。つーか、いい加減起きねーかな御坂? こんなトコでいつまでも寝てっと背中イテーだろうし……)上条「おーい、御坂? もしもーし。早く起きねーと、風邪引きますよー」『チョイチョイ(頬をつつく)』美琴「うーん……。むにゃむにゃ」上条「なんつー幸せそうな寝顔です事……」上条(んー、起きねえなー、やっぱり。どーすっかなーこれ?)上条「いっそ抱き抱えてコイツの寮まで……。いやいや待てよ?」上条(そんな姿を土御門やら青髪やらに見つかったら? いや、ぜってー見つかるに決まってる。んでアイツら俺の事目ぇ血走らせて追いかけ回すに決まってんだ。それで逃げ切ったとしても、後である事無い事言いふらさまくってみろ……!?)上条「カミジョーさんのバラ色――予定――の恋愛模様が!? 神聖な花園が土足で踏みにじられてっ!! うっがー! 不幸だぁ――――――――――!!」上条『ゼエ、ゼエ』「こ、こうなったらヤルしかねえ。鬼になれ――。血に飢えた獣になれ、上条当麻ッ!! そして奴らの喉笛をガブーッと……」美琴「…………」上条(あれ? いつの間に目を覚ましたんだコイツ?)上条「みさ――」美琴「イヤッ!!」『ゴンッ!(垂直アッパー)』上条「はぐっ!?」美琴「ぁ……」上条「な、ないひゅあぱぁ……、ふこ……」『ドサッ(親指を立てながらゆっくりと崩れ落ちる)』美琴「あれ? あ、あれぇ?」美琴(私一体どうしたんだっけ? 落ち着いて思い出せー……。確か、コイツがAとかBとかおかしな事言いだしたんだったわ。それで……)『もそもそ』美琴「これ……。ぇ?」美琴(学、ラン……?)『ギュ―――――ッ(思わず学ランを引き寄せて丸まる美琴)』美琴(はぁ、こんなモノからもでもアイツの無駄な包容力を感じるのねぇー……)美琴「って!? な、何考えてんの私!? ち、違うのっ!! こ、これは寒いから!! そう!! 寒いから思わずあったかいなぁー、なんてっ!! はは、あはは、あはははは……、はは、は、は……」『スリスリ(空笑いしながら上条の膝をなでる)』美琴「!!!」『ガバッ!! ズサササササササッ!!』美琴(な、何でわ、わた、わた、わた……)美琴「ふにゃあ」『ゴンッ!』美琴「あだっ!? ぅ……、頭が割れる……。不幸だわこれ……」『すりすり(自分の頭をなでる)』美琴「!!」『ババッ! バババッ!!(高速で自身の身だしなみチェック)』美琴「ふー……、おかしな所は無いみたいね……」『ガックリ』上条「う、う……」美琴「あはははは。ま、まあ、アレね。は、初めてが気付かないうちに終わっちゃいましたじゃ、ああ、あんまりにも情けないもん……ブッ!?」『カァァァァァァアアアアア……(ゆでダコの様に真っ赤)』上条「不幸だ……。まだ顎がガクガクする」『コキコキ』美琴「ふぁ、ふぁたひは何期待してんのひょ? あ、あんにゃヤツ……、あんにゃヤツゥにはひ……」上条「あの右は絶対世界に通用するよ。日本初のヘヴィ級王者誕生ってか?」美琴「誰がヘヴィ級じゃゴラァ――――――――――ッ!!」『ガシッ!!(タックル&馬乗り)』上条「うわっ!? み、御坂!!」美琴「アンタはこんな時まで私の事スルーなんかっ!! ス、ル、ウ、な、ん、かァァァァァァアアアアアア!!」『ガクガク(マウントから胸倉を掴んでゆする)』上条「な、ん、の、は、な、し、だ、や、め、ろ、お、お、お、お……」美琴「ざけんじゃないわよこのっ!! パンチは褒めて、体は放置ですって!? こんな目の前に美味しいそうな女の子が転がってたら、唇の一つや二つや三つ奪うのが漢(おとこ)の筋ってもんでしょうが!!」上条「ま、待て御坂、お、お前言ってる事がおかしいって」美琴「何がよっ!? AとかBとかCとか!! とにかくアンタが先に言いだしたんだから、さっさと責任とって私に実践してみろってのよ!! この据え膳食わずの甲斐性な――」上条「落ち着け美琴ッ!!」『ギュ(持ちつかせようと抱きしめる)』美琴「ッ!?」『ビクッ』上条「美琴、ちょっと落ち着こうな。ほら、女の子のマウントポジションはカミジョーさん的には嬉し恥ずかしシチュエーションながら、取り合えず上から降りて」美琴「う、うん……」『ボボボボボ……』上条「よし美琴。で、何だって? 俺と、その、AとかBとかどうしたって?」美琴「え? そ、それは、えーとぉ……」『ザァ―――――(一気に血の気が引く)』上条「はぁ……、いいよ。言わなくて」美琴「へ?」上条「あのさー。お前、もう少し自分を大事にしろよな。ゲコ太ゲコ太ってそんなにお前にとって大事なのか?」美琴「え? え?」上条「まー、ふった俺が悪いんだけどさ。よく無いだろ? そう言う事は、好き同士がしなくちゃな」美琴「ちょ、ちょっと待って! 何か話がおかしな方向に行って――」上条「とにかく今回の目標は何だ! ヨシ! 美琴クン言ってみたまえ!」美琴「へ? あ? い、いま、美琴って呼ん――」上条「それはいいから答えたまえ!」美琴「あ、はい……。い、いちゃいちゃ……、する?」上条「そう! 正解ッ!」『ビシッ』美琴「ふえ?」上条「では第二問! 我々がいちゃいちゃするための障害を述べよ!」美琴「え……、ア、アンタの女性遍歴?」上条「ぐはっ!? そ、それは誤解が六回ですのよ御坂さん。ぼ、僕は決して優柔不断なハーレムキャラではございませんし、そもフラグ男などと良く言われますが、けっしてそれが良いのかと言えば、たまに発生する桃色イベントぐらいで、その後は、もう、もう……。あ、心の汗……」美琴「(ウ、ウザい)」上条「ぐぞ……。俺だってなぁ。俺だって、ホントは恋愛したいんだぜ。誰はばかる事無くキャッキャウフフしてえんでございますよ!!」美琴「え!? そ、それならわたし――」☆「それには及ばん」『グゴゴゴゴゴゴ……(床からせり上がる水槽。そこには逆さに浮かんだ、男にも女にも以下省略)』上条&美琴『ビクッ』「「ア、アンタだれ?」」☆「気にする事は無い。そうだな。上条当麻君。君の先輩、とだけ言っておこう」上条(先輩……? 学校にいたかこんな変な奴……?)☆「特に意味は無い。一つ付け加えるなら、学校ばかりとは限らん、と言う事だ」上条「は、はあ……」美琴「あの……」☆「何かね?」美琴「さっきの言葉の意味って?」☆「言葉どおりだ。君たちは君たちの思うままに青春を謳歌したまえ、と言う事だ」美琴「え、それってどう言う意味……?」☆「学園都市第3位の割には飲みこみが悪いな。それとも聞き返す事に何か意味があると取るべきかな?」『ニヤリ』美琴「んなっ!? ちょ、ちょっと、今の言葉取り消しなさふががっ!?」上条「わ、判りましたっ! 自由にしていいって事ですよね!」美琴「むがあ―――――!!」☆「君は物わかりがいいな」上条「ハハハハ。よ、良く言われますぅ」☆「(これで、後回しに考えていたプランが大幅に短縮される)」上条「え?」☆「若者が細かい事を気にするな。では、存分に励みたまえ。成功を期待している」『グゴゴゴゴゴゴ……(水槽が床に沈んで行く)』上条「はぁ……、何だったんだ一た痛ッ!!」美琴「ぷぇ。口離せこの馬鹿ぁ!!」上条「だからって噛む事ねえだろ?」美琴「ざけんじゃないわよ!! アノ金魚ヤロー、私の事見て笑ったのよ!? タダじゃおかない!! 今すぐ床ぶち抜いてあのクソ水槽から引きずり出して3枚にオロシテやるんだからっ!!」上条「物騒な事言ってないで外行くぞ、外」美琴「は、な、せっ、て、の、が、わ、か、ん、ねーのか、アン、きゃ!?」『ガバッ(上条にお姫様だっこされる)』上条「ああ、判りませんねー。猛獣ビリビリ中学生のたわ言など」美琴「ま、またビリビリって!? アンタまで私の事馬鹿に、きゃああ――――!?」『グワッ(上条がぐるぐる回りだしたので思わず首にしがみつく)』上条「大人しくしないと、ぐったりするまでメリーゴーランドの刑にしますよぉ――――?」美琴「わ、判った、判ったから、回るの、きゃああああ!?」『グルン(今度は逆回転)』上条「判ってくれた?」美琴「判ったって言ったでしょぉぉおぉおおお!? だ、だから、だから早く止め、きゃああああああああああああ!!」美琴(ふふ。ホントは全然平気なんだけど、面白いからもう少しこのまま)『ギュ』美琴「(べ、別に気分転換に抱きついてる訳じゃないんだからね! 勘違いしないでよね!)」『ギュ――――ッ』上条「どうだ御坂ぁ!! こ、これが上条ハリケーンだぁ―――――――――――――!!」美琴「やめてとめて、きゃああああああああああああ―――――!!」『ギュギュッ』謎の部屋を抜け出した2人は、☆の言った通り好き勝手する事にしたのだが。美琴「どこ向かってんのよ?」上条「取り合えずスーパー」美琴「スーパー?」上条「そう、スーパー」美琴「先生質もーん!」『バッ』上条「はい、美琴君!」美琴「美こっ!? み、みみ、美ここ……」上条「巫女? 姫神の事か?」美琴「違ッ!? って姫神って誰?」上条「うちのクラスメイトの巫女さん。これがまた格好とは正反対の何と言うか何と言うか、色々残念な感じなんだよ」美琴「いつの女?」上条「は?」美琴「いつ助けた女なの?」『パリパリ……』上条「ぇ……」(何怒ってんだコイツ?)『ジリジリ……』美琴「私より先? 後?」『ギロッ』上条『ゴクッ』「さ、先」美琴「どっちのが大変だった?」上条「へ?」美琴「どっちのが手間かかる女だったのか聞いてるのよ?」『ピシッ』上条「ひぇええ!? ひ、姫神っかな? そん時俺、右腕もげて死にかけたし。あ、でも、お前ん時も、全身打撲で毛細血管バンバン弾けてやっぱ死にかけだったしな」美琴「…………」上条「え? 何? 良く聞こえな――」美琴「馬鹿っつたのよ、このトウヘンボクッ!!」『バリバリバリッ』上条「ぬおぅわっ!! 御坂お前、急な電撃は止めろって――」美琴「死ぬわよ」上条「は?」美琴「アンタなんかホントはぜんっぜん弱いんだから、いつか死んじゃうわよ!!」上条「あの……、急にシリアス?」美琴「茶化すんじゃないわよこの馬鹿ぁ――――――――――!!」『ドスッ(頭から鳩尾に体当たり)』上条「おふっ!!」美琴「勝ち逃げなんかしたら許さないんだから、ぐすっ、ぐすっ」上条「不幸だぁ……。って、あれ?」美琴「ぐすっ、ぐすっ……」上条「あの……」美琴『キッ』「ぐすっ、ぐすっ……。何よぉ、すんっ、ぐすっ」上条(何ですかこの修羅場……?)『ポリポリ(上条困った顔で頬をかく)』「ふぅ。あのな、美琴」『パシッ(美琴のの頬を両手で挟んで)』美琴「ふきゅい!?」上条「俺を勝手に殺すな」美琴『コクコクコク……(目だけでうなずく)』上条「まあ確かにお前が言う通り、俺も毎回生き残る度に、は、まぁ本当によくもって思うのは確かだよ。だけどな、『死ぬ気で頑張る』とか、『死んでも頑張る』とか、そー言う言葉は、俺の辞書にはねーんだわ」美琴「…………」上条「それでもお前が不安に思うなら約束してやる。勝ち逃げはしない」美琴「で、出来ると、思ってんの?」上条「ああ出来る。信じてるからな――仲間を」美琴「ッ!? そこ……ぁ……」(聞けないっ! 仲間(そこ)に私はいるのかなんて……)上条「頼むぜ美琴」美琴『ぽわぁぁぁぁぁ……(星と花を散らせた蕩ける様な満面の笑み)』上条「それにはまず泣き虫治してくれよな」美琴「ハッ!? うっさいうっさいうっさーい!! も、当麻のくせに生意気なのよっ!!」上条「ハハッ、その調子で頼むぜ御坂。天下の学園第3位様には、涙より元気いっぱいのが似合ってるぜ!!」(あれ? 今名前で呼ばれた様な気がすっけど……)取り合えず仲直り(?)した2人は、当座の目的地、『スーパー』に向かっていたのだが……。美琴「ねえ」上条「…………」美琴「ねえっ!」上条「…………」美琴「この状況ですら無視すんのかコラァ!!」『バシバシ』上条「って!? 何なんですかお前は? 反抗期ですか?」美琴「呼んでんだから返事くらいしろっ!!」上条「ああ……、わりぃわりぃ。で、何んだ?」美琴「えっ、あ、あのぅ……」『モジモジ』上条「どうした御坂? 顔なんか真っ赤にして」美琴「え……あ、えっ、あぁ……」(「何で私の手を握って歩くの?」って聞きたいのに言葉が出ないっ!?)『チラ、チラ(目線が手と、顔と、何も無い空間を順番に追う)』上条「ああっ!!」美琴「!!」『ビクゥ』上条(トイレ、だろ? この様子、きっとそうだ。そうに違いありませんぜ、とカミジョーさんの中の紳士な部分が申しております)上条「わりぃわりぃ。え、えーとー」『キョロキョロ』(ここは自然に俺がトイレに行くふりをして……。お! おあつらえ向きの店があるじゃんよ)「美琴わりぃ。ちょっと寄り道いいか?」美琴「え? あ、ちょ、ちょっとぉ」『タタッ、トタタ、トタッ……(上条に手を引かれてよろける様に後について行く)』 そうして2人が入ったのは、とある大型ショッピングセンターの1階。しかも入った場所が悪かったのか、上条の運(ふこう)のなせる技か、この日の1階はフロア全てで女性用インナーを扱っていたのだ!!上条(うわっ!? 何でこんなッ!! ク、クソッ、き、気にするんじゃ無い上条当麻。無心!! 無心になるんだ)『スタスタスタ……(斜め下を向いて視野を極力狭くして足早に歩く)』美琴(やっ、ちょっ、あのニーハイかわいい……。このショーツのひらひらもステキね……。でもどうしてこんな所……? ハッ!? も、もしや……)『カァァァアアアアア……』美琴「ねぇ……」『モジモジッ』上条(見るな感じるな考えるな。アレには中身は入って無い。ただの布切れ、ただの布切れなんだ!)『スタスタスタ』美琴「あの、さ……。私も最近黒子の奴に毒されて来たのかな? その……、たまには大人の下着なんてもの、その、いいかなあ、なんて……」『モジモジッ』上条(あの黒いガーターベルトも、スケスケのキャミソールも俺には見えない! 見えないんだぁぁぁああああああああああ!!)『スタスタスタ』美琴「それでね、もし、やっぱさ、そう言うの買うならさ、い、異性って言うの? ほら、黒子とかじゃ色々と危険だし? と、年、う、上の意見なんかも参考にし、しし、したいし?」『モジモジッ』上条『ビクッ』(くあっ!! ば、馬鹿なっ!? 何ですか? 何で下着姿のオネーサンが頬笑みながら目の前を横切るんでせうか!? ここは桃源郷? いや馬鹿止めろ俺の心!? 無心だと言うのが判らんのかっ!!)『タタタタタ(上条、小走りになる)』美琴「でさ、か、かかか、勘違い、し、しな、しな、しないで聞いて欲しいんだけど。さ、参考に、ア、アアア、アンタの意見聞かせ……て……ほしい、かな? なんて……」『モジモジッ』上条(ヒッ!!)『ビクッ』「ノーパン……」美琴「ノ、ノーパンッ!?」『ビクッ』上条『ガクガク(目の前を通った超シースルーショーツ『羽衣』を着た女性を指さして震える)』美琴(そ、そんな高いハードル、き、急に飛び越えろって言われ……ハッ!? これは試練? 私は今パートナーとして試されてるの……?)上条『ギギギギ……(上条の首がぎこちなく回る)』「みさか……(棒読み)」美琴『ビクッ』「え! あ!? あの、わ、私頑張るからっ!!」『グッ(拳を握る)』上条「むりはするな。せかいがちがうんだ。わすれろ。おれもわすれるから(棒読み)」美琴「だ、な、何言ってんのよ? だ、大丈夫だから。ほら、今証明して見せるからっ!」『パッ(上条の手を解く)』上条「?」美琴「み、見ないでよねこっち……っと、よっ、と……」『モソモソ、ゴソゴソ(上条から見えない角度で、何やらスカートに手を突っ込んでくねくねしている)』上条「お、おい?」美琴「お手」上条「お手」美琴「はい」『パサ』上条「何これ?」美琴「証明」上条「何だよ証め……(手にしたものを広げると、見た事のある短パン)ぶっ!? こ、こりゅえ!!」『ボフン(真っ赤)』美琴「今はこれが精一杯――無くさないでよね。い、ち、お、う、返してもらう予定だから」『カァ――――ッ(上条以上に真っ赤)』上条『コクコク(短パンを握りしめてうなずく)』美琴「オッケ。じゃ、そ、その、恥ずかしいから、もうしまってくれる?」『モジッ』上条「お、おう、わりぃ……」『ゴソゴソ』美琴(ポケットに仕舞った……)『ボフッ』上条(何やってんだ俺? 御坂の短パン、ポケットにねじ込んで……。しかも、この状況になんかドキドキしてないかぁぁぁあああああああ?)美琴「ねえ」上条「ひゃい!?」『ビクッ(右腕に美琴がしなだれかかって来たので)』美琴「折角だから、ここ、回ってもいい?」『ギュ』上条「お、おう」(む、胸ッ!? 胸ェッ!?)美琴(おかしいわね? こう言う時は必ず邪魔が入るモンなんだけど? ま、いいわ。今はこの時間を楽しみましょ)白井「今日は一体全体何なんですの!? つまんない事件ばっかりあちこちあちこちあちこちと――」初春『白井さん、そんな事言ってないでさっさとお財布探して下さい! 中に入ってる映画チケットで入館出来る時間は、あと30分切ってきゃ!?』白井「初春?」××『その映画は超レアなんです。これを逃すと次はいつか分からないんですよ! 本当に超よろしくお願いします!!』初春『だ、か、勝手に通信しないで下さい! 白井さん、そう言う事らしいんでよろしくお願いしますね!』『ブツッ』白井「ホント何なんですのよ今日は?」
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox 共犯者 Let s_get_ready_to_rhumble. 上条がベッドに放り込むと美琴はそのまま眠りについた。 何だかんだ言って一度は体力を使い果たし疲れ切っていたのだ。 上条は美琴が寝入ったのを見計らって、パジャマ代わりのTシャツを脱いで夏服に着替えると、なるべく物音を立てないように慎重に歩き、靴を履いて部屋の外へ出た。 彼女に会いに行こう、と上条は思った。 自分が何かできるわけじゃない。わかってる、こんなのはお節介だ。 お節介でも自分がやりたいことだから、上条は寝静まった夜の街を歩く。 お嬢様の見かけとは裏腹にガッツのある少女は、きっとあそこにいるはずだ。 白井は一人で河原に佇んでいた。 この時間、川に架かる大きな鉄橋には人影も走り抜ける車の姿も見あたらない。 星座はその位置を変え、日付も変わって、常盤台のお嬢様はもとより中学生が出歩いていい時間帯などではなかった。 川べりに流れる六月深夜の空気はほのかに冷たく、白井の頬を刺す。 空間移動を使えば空調の効いた自室に帰るのはたやすかった。 一度は寮に戻って寮監の見回りをやり過ごしたけれど、思い出の詰まったあの部屋で、一人で沈んでいたくない。 白井黒子は一人、美琴に立ち向かった河原に佇み、美琴と過ごした季節を思い出していた。 二人が同室になって一ヶ月目の記念日。二人仲良く喰らった罰掃除だって笑って思い出せる。美琴からもらったウサギ柄のシャツは白井の大切な宝物だ。 虚空爆破事件。美琴の矜持を改めて確認した事件だった。 幻想猛獣戦。幻想御手を追いかけて負った傷が重く、露払いでありながら美琴のために満足に動けなかった。 あすなろ園のボランティア。恋のキューピッドがうまく行かなかったのは残念だった。 盛夏祭。写真を撮るのも忘れてバイオリンを奏でる美琴に見惚れていた。 乱雑開放。狂乱の科学者。学園都市に潜む闇の片鱗に触れた。 学芸都市。トビウオを迎え撃つために美琴のサポートに徹したあの日。 結標淡希。美琴の何かを知っている女。空白の八月二一日につながる女。 傷ついて、傷つけられて。 ここまで二人三脚で歩いてきた。 それなのに、二人の歩みを横からさらうようにあの少年が現れた。 上条当麻。 美琴を対等に扱い、美琴を認めて、そして美琴が認めた少年。 最初から分かっていたのだ。あの少年が寮に現れた時に自らの口で全てを語っていたのだから。 美琴だけが気がついていなかった。 美琴が幼くて、なかなか自分の気持ちに気がつけなかっただけ。 幼い故の真っ直ぐさを持ったあの少女を白井は愛して、少年も愛した。 そして美琴は少年の手を取った。 たったそれだけのお話だった。 「よう、白井。ここにいたんだな」 白井黒子は自分に向かって不意にかけられた声に振り向くと、そこには上条当麻が立っていた。 「あなたは……カミジョーさん、でしたわね。完全下校時刻はとっくに過ぎてますのよ? こんなところで何をされてますの?」 白井は頬を膨らませる。 野暮な男だ。どうせ美琴から話を聞いて来たのだろう。 上条は右手を挙げて軽く挨拶すると 「それはそっちだって同じだろ。こんな夜中に何やってんだよ、常盤台のお嬢様? 風紀委員だってこんな時間の活動は許されてないんじゃねーの? ……御坂から話を聞いてな。それでちっとお前と話してみたいと思ってよ。……今良いか?」 「乙女が物思いにふけってる時に声をかけて来るだなんて無粋な方ですのね。……良いですわ。独り言を呟くのにもそろそろ飽きてきましたし」 どこまでも無粋な男だと思ったが、この少年と話すなら今を置いて他にないと白井は思う。 彼は美琴を守るに値するのか、否か。 上条は白井の警戒を解くように笑いかけながら 「御坂はうちで預かってる。疲れてるみたいだから部屋で寝かせてるけど、明日になったら寮に帰すよ」 「……わかりましたわ。それでは未成年略取、婦女監禁暴行……どの容疑で拘束されたいかご希望をどうぞ」 「ちっ、違う! 俺は監禁も何にもしてねえよ!」 上条は両手をわたわたわたわたと振って即座に否定すると、頭をガリガリとかきながら 「俺が言って信じてもらえるかどうかは分からねえけど……アイツはまだ中学生だから……手を出すなんてそんなことは」 「……はぁ。お姉様の彼氏と言うからさぞかしスマートに扱ってらっしゃるのかと思ってましたけれども、これはとんだヘタレでしたわね。がっかりですの」 「ヘタレとがっかりのダブルでけなされてますよ俺……。常盤台中学のお嬢様ってのはどいつもこいつも口が悪いのか?」 近頃の中学生は理解できない。 これがいわゆる耳年増とでも言うのだろうかと上条がげんなりしていると 「もっとも、過ちを犯した事実が発覚した時点であなたをズタズタに」 「すんなよ! 俺たった今アイツに手なんか出してねえって言っただろ!?」 上条の抗議を気にも止めず、白井は頬を膨らませたまま 「お姉様があなたを選ばれただなんて、正直今でも信じられませんの。お姉様と釣り合いの取れそうな殿方など学園都市にもそうそういませんけれども、少なくともあなたのような品性下劣な類人猿ではありませんわね」 「悪かったな、品性下劣な類人猿で」 上条が一字一句を間違えず白井に返す。 上条はふと遠い目をして 「俺だって正直、時々信じらんねーんだよ。御坂に好きって言われたことが。……、俺はそこまで御坂に思われるような奴じゃねえって」 「あらあらまぁまぁ、お姉様から告白させるだなんて……あなた本当にヘタレですのね」 「ヘタレヘタレってうるせえよ! ……否定はできねえけどな」 白井の隣によっこらせ、と座り込んだ。 白井もそれにつられるように座り込む。常盤台中学の生徒としてこんな地べたに腰を下ろすような教育は受けていないが、今は何となくそれが似つかわしく思えて、白井は上条の言葉に耳を傾ける。 「去年のいつ頃だったかな。アイツに呼び出されて、告白……されたんだよ。そん時俺はどうにも話が信じられなくて、何度もアイツに確認しちまった。アイツのことはそこまで嫌いじゃなかったから、友達のノリでついオッケーしちまって、その後アイツの思いと俺の考えのギャップで結構ぎくしゃくしてたかな」 「それでどうしてあなたは今でもお姉様と付き合ってらっしゃいますの?」 「アイツに口説き落とされた……っつーか、アイツの気持ちの根っこみたいなのを真っ直ぐぶつけられて、俺も誰かを好きになる気持ちがようやくわかったって言うかさ。お前だってそうだろ? アイツと一緒にいると気持ちが良いだろ? どこまでも真っ直ぐでスカッとするって言うか……そんな風に思われたら悪い気はしねえよ。気がついたら俺もアイツのそばにいたいって思うようになった。この気持ちはお前が御坂に向けていると同じじゃねーのかな」 上条は照れくさそうに顔を歪めると 「ま、男と女じゃどうしても食い違うところはあるけどな」 頭をポリポリとかいて、照れくさそうに笑った。 白井は心の底からうんざりしたと言いたげな顔で 「……とんだ惚気をありがとうございますの。のしをつけてお返しいたしますわ」 白井が垣間見た少年の横顔は、幸せそうだった。 たった一人に与えられる愛を美琴はこの少年に振り向けて、そして少年は美琴が望むものを美琴に与えて。 白井が望んで止まぬものをこの少年は手にしている。 それでも白井は、少年をうらやむことはない。 美琴が選んだことだから、美琴の意思を尊重して。 選択の結末に、川の流れを見つめながら白井は淡く微笑んだ。 「なあ、白井」 上条は言いにくそうに苦笑しながら 「御坂のこと、頼む」 あまりにも突然で予想できなかった上条の言葉に、白井が顔を上げると 「俺は御坂美琴とその周りの世界を守るって約束してっけど、どんなに俺が走っても間に合わない事態がいつか来ると思う。だからその時は何の打算もない、純粋にアイツの事を好きでアイツのそばにいる、お前が御坂を守ってくれ。他にこんな事頼める奴はいねえから」 誰もが心の奥底に眠らせる、大切なものはこの手で守るという夢。 しかし、それがかなわない時、己の矜持を貫いて大切なものを傷つけるか、他者に託してでも守るか。 一番大事な事を見失ってはならない。 上条当麻がステイル=マグヌスにインデックスを託したように、 海原光貴が上条当麻に約束を迫ったように。 人は自分の大切なものを誰かに託してでも、心の中に走る痛みと引き替えに、大切なものを守る事を選ぶ場面がやってくる。 大切なものを守れるのなら、手段はどうだって良い。 夢だから守るのか、守るから夢なのかなどと言う事はどうだって良い。 自分の手で守る、他人の手を借りるのはごめんだなどと言うのはつまらない意地の問題だ。 遠距離の相手と話をするには電話を使えばいい。そこに精神感応(テレパス)など必要ない。 空を飛びたければ飛行機があるのだから空力使い(エアロハンド)に風を送ってもらわずとも良い。 AIM拡散力場についての詳しい解説が欲しければ躊躇せず美琴に尋ねるように。 魔術や術式についての説明が欲しければためらうことなくインデックスに尋ねるように。 大事なのは結果だ。手段ではない。 時には彼女の隣の居心地良ささえ放棄して、 上条当麻と白井黒子は、きっとその一点で共犯者になれる。 あの気高く優しい、幼く純粋な少女を守るために、 白井黒子は大切な何かを見誤るほど愚かな女ではない。 白井は凛と澄んだ声で 「あなたにそんなことを言われなくても最初からそのつもりですの。お姉様の影を誰かに汚させなどしませんわ。お姉様の笑顔を曇らせるものはたとえ相手が誰であれ、わたくしは容赦しませんの。……殿方さん、それはあなたであっても例外はありませんのよ?」 誇らしげに、高らかに告げる。 頼まれたから守るのではない。守りたいから守るのだ。 上条と白井は打算ではなく単純に、ただお互いの立場を利用するだけの共犯者。 「はは、そう言ってくれっと助かる」 何一つ隠すことなく、素直に上条は笑う。 ところで、と白井は一拍置いて 「『彼女の周りの世界』についてはどうされるおつもりですの?」 「もちろん俺が守る。けど、俺が間に合わない時はきっと……アイツが立ち上がるさ。知ってんだろ? アイツは俺よりもずっと強いから。ただ黙って守られてるような奴じゃないって事もな」 「そうですわね。腹立たしいくらいにお姉様は強くて、弱いですから……守りますわよ。お姉様を」 「ああ」 上条は白井に右手を差し出し、白井は右手で上条の手を握る。 上条当麻と白井黒子にとって、最初で最後の、共犯者の握手を交わして、 上条と白井は同時に立ち上がり、それぞれの帰るべき場所を目指して、 もうこれ以上何も語る必要などないと、それぞれに歩き始めた。 太陽が昇る。 梅雨もとっくに明けて、初夏と真夏の間に差し掛かる六月の朝は空気が澄んで心地良い。 街路樹の根元に咲いた紫陽花も花がほとんど落ちかけている。 通学ラッシュの時間を外しているので、早朝から通学路を利用しているのは原始的な陸上トレーニングに勤しむ運動部出身者くらいのものだ。ましてや学校とは逆方向に向かって歩く学生など、上条と美琴くらいしか見あたらない。 上条は隣を歩く美琴に 「……、気分はどうだ? 落ち着いたか?」 「……うん、ありがと。アンタがいてくれて良かった」 美琴は小さく頷いた。 上条は美琴と二人で早朝の常盤台中学『学外』学生寮へ続く道を歩く。 上条は右手で薄っぺらな学生鞄の取っ手を、左手で美琴の手を握っている。美琴を寮まで送ると自分の寮へ戻るのも中途半端な時間のため、少し早いがそのまま学校へ行くつもりだ。 美琴は少しだけ表情を曇らせて 「ねぇ……黒子は何て言うかな」 「さあな……俺には分かんねえよ。でも、お前の知ってる白井なら……ほら、あそこにいるぜ?」 鞄を持ったまま掲げる上条の指先を美琴が目で追うと、学生寮の玄関前には白井黒子が立っていた。 彼女は美琴が帰ってくるのを朝早くから寮の前で待っていたのだ。 上条が白井に向かって鞄を持った右手を振りながら 「おっすー、白井。御坂連れてきたんで、後はよろしくなー」 「殿方さん、朝早くから不良娘の連行ご苦労様ですの。常盤台中学の風紀委員としてご協力感謝申し上げますわ」 白井は上条と美琴の二人に対し空間移動で一気に距離を詰めると『おはようございます』とお嬢様らしく礼儀正しいお辞儀で挨拶を返す。 「ちょ、黒子!? アンタいつの間にコイツと仲良くなったの?」 昨夜の上条と白井の会話を知らない、ただ一人蚊帳の外の美琴は二人のやりとりに目を丸くする。 白井はあきれ顔で美琴を見やって 「何の事ですの? こんな類人猿とわたくしが友誼を結ぶだなんて、いくらお姉様といえど聞き捨てなりませんの。……そうですわね、強いて言うならわたくしとその殿方は共犯者、ですわ」 「……きょう、はん、しゃ?」 事情を知らない美琴が目をパチクリとさせた。 白井はとってつけたようなお嬢様の麗しい微笑みと共に、美琴の左手を両手で包みこんで頬をすり寄せ 「さぁさぁお姉様、もうすぐ朝食のお時間ですからひとまずその乱れた御髪を整えませんといけませんわね。制服はクローゼットから急いで替えを用意いたしますの。もちろんお姉様は一歩も動く必要はありませんのよ? 上から下まで全て黒子が空間移動で取り替えて差し上げますからご安心を」 「アンタ昨日私に負けて色々あきらめたんじゃなかったの? 何で夕べよりパワーアップしてんのよ!? こら馬鹿止めろ離せ、どこに手を突っ込んでんだこの変態!! 変な妄想を膨らませんな!! 私の彼氏の前で私に変な事すんなあーっ!!」 「あら、何のことでしょう? 黒子はお姉様をあきらめたなどと一言も申し上げておりませんのに。むしろこれまで以上にお姉様に尽くして、お姉様を支えて差し上げる所存ですの。さぁお姉様、お急ぎくださいませ。寮監が騒ぎを聞きつけますわよ? それでは殿方さん、ごきげんよう」 ブン! と羽音のような音色が響いたと思った瞬間、白井と美琴の姿が虚空に消えた。消える寸前、美琴が『ちょ、ちょっとアンタもそこで笑って見てないで何か言いなさいよ!? 自分の彼女が大変な場面なのに「じゃあ俺はこれで」って何スルーしてんだこらーっ!』とか何とか言ってたような気がしたが、きっと美琴は昨日の今日で白井の好意に甘えるのが照れくさかったのだろうと上条は考えて。 一人、肩に担いだ薄っぺらな学生で六月の朝の空気を切って、歩き出す。 白井(きょうはんしゃ)に後の面倒の全てを託して。 上条当麻が御坂美琴の右手を取るなら、白井黒子は美琴の左手を取る。 利き手より少し不器用な左手のために、白井は美琴の露払いとしてあり続ける。 今日も、そして明日も。 美琴にいちばん近い場所にいる後輩として、同室のパートナーとして。親友として。 白井黒子は御坂美琴の隣にあり続ける。 白井黒子と上条当麻は、御坂美琴を守る共犯者であり続ける。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side ― バレンタイン・空白の30分 ― (どうしてこうなった…?) 上条当麻は本日、バレンタインに御坂美琴と晴れて付き合うことなった。 そこに至るまでには紆余曲折とした事情があったものの、全てはハッピーエンドで終わった。 ……はずだった。 今上条の腕の中には半分猫化、半分幼児退行した御坂美琴がいる。 別に彼がそれが嫌というわけではない。 むしろ嬉しいくらいだ。 「うにゃー。当麻の胸あったかーい…」 こんな風にベタベタに甘えてこなければ… 事の発端は先ほどの紆余曲折とした事情の中の上条が一度美琴をフッたことにある。 美琴はそれで大変傷ついたらしく、それの"仕返し"を要求してきたことが始まりだった。 今や彼女は上条の膝の上に横向きに座り、彼の胴体へ手をまわし、胸に頬をすり寄せている。 そういう状況にあるので、上条は腕の位置に困り、始めはどことも知れぬ場所へと腕を漂わせてはいたのだが、腕の疲労もあり仕方なく彼女の体に手を置いているというのが今の図だ。 「御坂さん?流石にそこまでベタベタされるのは…」 「契約違反はプラス30分だからね」 「……はい」 「あとそれと……美琴って呼んで?」 美琴は甘えた上目遣いでそう上条に懇願する。 知らない、上条はこんな彼女を見たことがない。 上条の知っている美琴はもっと元気で、凛々しく、ここまで人に甘えてくるような人間ではなかったはずだ。 まして、これほどまでに甘ったるく色っぽい視線を送れる人間ではなかったはず。 「…………美琴」 「よくできましたー♪ご褒美に頬摺りしたげる」 そう言うと美琴は胴体にまわしていた手を今度は首へまわす。 そして一気に顔と顔の距離を縮め、頬摺りを始める。 (どわ――!!なんか美琴の色んなところが当たってるし、しかもなんか良い匂いがする―――!!!) 「私、ずっとこうしたかったの!」 「ってお前がしたかっただけかい!(時間は!?あと何分!?)」 えらくご機嫌な美琴を横目に、上条は携帯の時計を横目でちらりと見る。 時間はまだ始まってまだ10分といったところ。 (10分!?全体のまだ三分の一!?……不幸だ。どうか理性を保てますよう…!?) 不意に何かが上条の目を覆った。 そして次の瞬間、唇に何か柔らかいものがあたる。 彼はこの感触を知っている。 数分前に彼が身をもって体験したものだ。 そう言わずもがな、美琴の唇だ。 (もがっ!!こ、こいつ…!さっきはあんな恥ずかしがってたのに…!!) そうしている時間はさほど長くはなく、比較的早くに熱は離れていく。 視界がもどった上条の目にとびこんできたのは少し怒ったような、でも目には熱がこもっており、トロンとしている美琴だった。 「……私が目の前にいるのに、考え事するのは無粋なんじゃない?」 美琴は上条が他の事を考えていることが気にくわないらしく、彼を睨みつける。 対して上条は何も言えず、ただ大きく首を縦に振った。 「ん、わかればよろしい」 そしてまた美琴は上条に抱きつき、上条の胸に顔を埋める。 「幸せだなぁ……こういうことできるのって…。前じゃ考えられなかったもん」 「まあそうだな。お前は何かにつけてビリビリしてああごめんなさい謝りますからその怖い目つきで睨むのは止めてください!!」 今は上条の右手が美琴に触れているため、美琴は電撃を出せない。 代わりに精一杯の怒気を放つ。 「ったく、今はそういう雰囲気じゃないでしょう?」 「知るかよ…」 「はあ……まあアンタにそういうことを求めるのは間違いだってのはわかってるけどさ。もうちょっと何とかできないの?」 「どうすりゃいいんだよ…」 美琴はそれを聞いて、より大きなため息をついた。 「……もういいわ、とりあえず私はこうすることができるだけでも満足だし」 美琴は今心底安心しきっている顔を見せている。 この表情はいつも上条や他の人に見せるそれではない。 思えば彼女がこういう顔をするのは極めて珍しい、というか、今まで上条は見たことない。 (そういえば、そうだよな……なんでもできるすげーお嬢様かと思ってたけど、こいつだって年頃の女の子だもんな…) 彼女は常盤台のエース、学園都市でも七人しかいない超能力者の第三位という立場上、なかなか人に甘えることができないはずだ。 故に本来甘えたい年頃でも他人に甘えることもできずに育ってきた。 だがようやく、上条という拠り所を見つけ、そして手に入れた。 今のベタベタな甘えはそこから来ているのだろう。 上条は美琴をそう考えると、なぜだか彼女がより愛らしく見えてきた。 「な、なんて目で見てんのよ」 「ん…?」 「……別に……何でもない」 「??」 美琴は少し頬を赤らめ、目を逸らす。 上条には何が起きたかわけがわからなかった。 実を言うと、彼は無意識の内に先ほどの思考から美琴をできうる限りの優しさに満ちた目で彼女を見ていた。 それを彼女が見て、どぎまぎしてしまったわけなのだが… 美琴はそれを隠すように、抱きしめる力を強くした。 ―――――気づけば時間は残り五分程となっていた。 上条にとって途中は普段時間よりもはるかに遅く感じられた時間も、終わりにさしかかってみると、案外あっけなく思えてくる。 先程の謎のやりとり(上条にとってだが)の後も美琴の態度はあまり変わらず、ひたすらベタベタしてきていた。 だが、残り五分程になると名残惜しいのか、美琴は上条にひっついてはいるものの、どこか始め程の勢いはない。 今も彼女は上条の腕の中でしおらしくしている。 「ねえ……もう30分追加しても……」 「流石に止めてくれ…上条さんの理性が保ちません。……今でも結構きてるんだぞ」 「そっか…」 それを聞いてか、やはり美琴は寂しそうにする。 上条としてはこれ以上ベタベタされるのもよろしくないが、こんな寂しそうにされるのもよろしくない。 どんな形であれ、美琴が素をだせるような人間は少ない。 そんな彼女が 上条を拠り所として選んだのだ。 それは彼女は決死の告白をし、今もこうして上条に甘えていることにも表れている。 それなのに、彼女がやっと手に入れた安心して素を出せる人間が上条なのに、彼女の素をだせる居場所を壊してはならない。 「美琴、別にこれからはずっと一緒なんだ。だからそんな顔すんな」 だから、上条は一つ提案をした。 「お前が望むなら、偶になら別にいいから…な?」 「えっ…いいの?」 「ああいいぞ。…ただし、偶にだからな!」 「うん…!」 始めまでとはいかずとも美琴は少し元気を取り戻す。 そしてこの時間の最後のお願いと言わんばかりに、今までにないくらいの甘えた上目遣いで、 「ねえ、当麻……目瞑って」 と上条を見つめつつお願いする。 無論これで落ちない男がいるだろうか、いやいないだろう。 上条は始めは少しためらいつつも、言うとおりゆったりと瞼を閉じてゆく。 数秒間は何も変化は訪れなかった。 それに多少の疑問は覚えながらも上条は瞼を固く閉じ続ける。 そして十秒程が経った頃、変化は訪れた。 胴体へ回されていた腕を首へ回され、そして ―――本日三度目のキスをした。 しかし、それは雰囲気に後押しされた一回目のような短く、優しいものでも、何気なくされた二回目のようなあっさりしたものでもなかった。 「ッ!!」 「ん……」 それはほぼ限界値を迎えていた上条にとっては残酷な程甘く、熱いものだった。 当然何をされるかはなんとなくわかっていた彼でも、予想しえなかった展開である。 始めは戸惑いを隠せない彼ではあったが、次第に彼女を受け入れ自身もその熱に身を任せた。 ―――美琴は上条から離れ、しばらくの間、まだ熱のこもったお互いの瞳を見つめ合う。 そして約束の30分。 「―――えへへ……んじゃ名残惜しいけど、今日は流石にもう帰るね。今日はありがと」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side
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とある少女と堕ちた少年 第1章 別れと仕事「すまない、今まで騙すような真似をしていて」上条は現在学園都市第23学区にある空港へと足を運んでいた。上条の前には白い修道服を着た銀髪のシスターと赤髪の神父が立っている。「ううん、とうまは悪くないよ。 私のことを気遣ってくれたっていうことも分かってるし、元はといえば私が…」銀髪のシスター…インデックスは何処か無理をした表情で答える。上条から記憶喪失だということを聞かされた時はショックで目の前が真っ白になった。そして原因が自分であることも分かっていた。自分を救ってくれた少年を自分の手で殺してしまった、それはインデックスが一生背負っていく後悔だろう。上条も出来ることならインデックスには何も知らせずに、インデックスのことを支えてあげたいと考えていた。しかし上条は一人の少女を守るために自分の全てを投げ出すことを決意した。まだ上からの仕事は一回しかこなしたことはないが、恐らく上条の主な仕事は対魔術師の戦闘になるだろう。そして上条の傍にいれば十中八九、対魔術のエキスパートであるインデックスは利用されることになる。イギリス清教と学園都市どちらがインデックスにとって危険なのか判断は難しかったが、絶対能力進化などのことを考えると学園都市に根付く闇のほうがより深いと上条は結論付けた。そしてインデックスのことをイギリスに送り帰すことを決意したのである。「インデックスが気にすることは無い、多分だけど前の俺もインデックスを守れて満足だったと思う。 ステイル、身勝手な願いだってことは分かってるがインデックスのことを頼む。 お前は今の俺の知ってる中で一番信用できる男だ、何かあったらインデックスのことを守ってくれ」「…君に言われなくても、この子のことは守ってみせるよ。 それにしても…」赤髪の神父…ステイルは上条の顔を見て複雑そうな表情をしていた。上条はかつてのステイルと非常によく似た表情をしている。自分の大切なもののために全てを投げ打つ覚悟、今の上条からは以前のような甘さは感じられない。出来れば自分を打ち倒した上条には同じ轍を踏んで欲しくないと願っていた。しかし人の覚悟をとやかく言う筋合いは誰にもない。ステイルは決して言葉にはしないが上条の行く先に幸がることを祈るのだった。『もしもし、感動の別れは済みましたか?』インデックスとステイルが飛行機に乗り込んだのを見送ると上条の携帯が鳴り電話に出ると発信元はやはり統括理事長の部下を名乗る男だった。『本当は彼女にも我々の駒として動いて貰いたかったのですが…』「ふざけるなよ、何でもお前らの思い通りになるとは思わないことだ」『それもそうですね』「それで今日は何の用だ、何か依頼があって電話したんだろ?」掴み所のない電話の先の男に苛立ちを覚えながらも、上条は本題に入るように促す。『ええ、今日も駆除していただきたい人物がいるので電話しました。 詳細なデータは携帯に転送しておきますので、依頼を受けるかどうかの判断はあなたに委ねます。 もっともあなたなら受けざるを得ない内容の依頼ですが…』男がそう言って電話を切ると上条の携帯にターゲットの詳細なプロフィールが送られてきた。プロフィールに目を通すと上条の中にやり切れない感情が溢れてくる。今回のターゲットは天井亜雄に芳川桔梗、絶対能力進化の実験の中核を担った研究者達だった。 美琴は妹達達へのお見舞いが終わると恒例のコンビニでの立ち読みに耽っていた。随分と久しぶりに漫画を読んだ気がする。まだ二週間も経っていないに関わらず、あの絶望を知ったのが遠い昔のように感じられた。そして自分達を絶望の淵から救い出してくれた上条のことを想うと自然と頬が火照るのを感じる。美琴自身は自分の頬を火照らせた感情の正体に気付いていない。しかしそれは嫌な感情ではなく自分を根本から変えてしまう、そんな未来を予想させる感情だった。気付くと上条のことで頭が一杯になってしまっていた美琴は我に返り、気を取り直して漫画に集中しようと雑誌の一コマに目を向ける。だが美琴の集中を妨げるように、一人の少年が声を掛けてくるのだった。「あれ、御坂さん? ちょうど良かった、あなたにお尋ねしたいことがあったんですよ」声を掛けてきた少年の名前は海原光貴、美琴が通う常盤台中学の理事長の息子だ。以前から立ち話くらいする関係だったが絶対能力進化の実験が終わってから妙に馴れ馴れしくなっており、美琴の新たな頭痛の種になっていた。「あのー、私これから用事があって…」「すぐに済みます、ちょっとある男性についてお話したいだけですから…」やはり退こうとしない海原に少し辟易としながらも、何故か目の前にいる海原に違和感を感じる。よく見ると海原は腕に包帯を巻いていた。「怪我されてたんですか?」「ええ、実はこの怪我も話に関係あるんですが。 実はこの数日間、何者かによって監禁されてたんですよ」「えっ!?」それはおかしい、この数日の間に美琴は海原と遭遇していた。「どうかしましたか?」「い、いえ、何も…」海原の言葉に矛盾を感じながらも、美琴は取り合えず海原の身に何が起こったのか全て聞いてみることにした。「この怪我はその際に負わされたものなのですが、実は監禁されていたところをある男性に助けられましてね」「男性?」「男性と言うには些か語弊があるかもしれません、男性の歳は自分と同じくらいでしたから少年と言った方が的確ですね。 その少年なんですが、名乗りもせずに自分を助け出すと立ち去ってしまったんです。 自分としてはぜひ彼にお礼をしたいのですが、何分情報が少なくて… 分かっているのは黒髪にツンツン頭というだけで」「えっ、それって!?」「やはり心当たりがあるんですね? 御坂さんがその特徴と一致する少年と一緒にいたところを見たという情報を聞いたんですよ。 出来ればお礼をしたいので紹介して頂けるとありがたいのですが」しかし美琴の耳には既に海原の声は届いていなかった。恐らく目の前の海原は嘘を言っていない、人を見る目はあるほうだと美琴は自負していた。海原の話が本当だとすると美琴が会っていたのは海原の偽者ということになる。海原が開放された今、偽の海原はどうなったのだろうか?そして海原を救ったという少年は恐らく上条で間違いないと美琴は考えていた。だとすると偽の海原も上条も捕まえるか何かしたのかもしれない。しかし偽の海原がわざわざ自分に近寄るような真似をしたのか、美琴には心当たりがない。ただ美琴の知らないところで、また上条に救われた可能性が高かった。「御坂さん、大丈夫ですか?」完全に自分の世界に入ってしまった美琴を心配するように海原は美琴の顔を覗き込んでいる。「え、ええ、確かに私と海原さんの言っている方は知り合いの可能性が高いと思います。 ただ私も連絡先を知ってるわけではなくて。 今度会ったら海原さんがお礼をしたいということを伝えておきますんで…」「そうですか… 分かりました、ぜひ機会があったら彼のことを紹介してください。 何しろ命の恩人ですから、海原家の人間として恩を返さないわけにはいかないですからね」海原は美琴に頭を下げるとコンビニから出て行った。(まったくあの馬鹿は私にどれだけ貸しを作れば気が済むのよ)文句を心の中で呟きながらも上条を探しに街へ繰り出す美琴の足取りはとても軽やかなのだった。 美琴が街へ繰り出した頃、上条はとある研究所で女性の研究員と対峙していた。研究室の壁には気を失った男が拘束され壁に凭れ掛かっている。女性の研究員…芳川桔梗は対峙する上条に対して自嘲するように言った。「ふふ、ようやく私にも天罰がくだる時が来たようね。 思えば実験の内容を知った時から、こうなることを望んでいたのかもしれない」「どうしてそう思いながら実験を止める努力をしなかったんだ?」「私はね、あなたのように強くもないし優しくもない。 結局は自分の身が一番大事だったのよ。 だから妹達に情を抱いても、助けるという選択肢までは行き着かない」芳川も本当はただ利用されただけの存在なのかもしれない。それでも芳川は自分の罪から逃げるつもりはない。今まで死んでいった10031人の妹達は紛れもなく自分が殺したようなもので、罪を学園都市第一位の少年だけに擦りつけるわけにはいかなかった。ただ恐らく自分達の罪のせいで目の前の妹達を救ったヒーロー…上条を闇の世界に落としてしまった。そのことを上条を心の支えとしているであろう妹達に心の中で謝るのだった。そして上条にはもう一つ頼まなければならないことがある。「身勝手だとは思うけど、あなたに一つ頼みたいことがあるの」「何だ?」「奥の部屋に最後の妹達…打ち止めが眠っているわ」「打ち止め?」「妹達の上位個体に当たる存在でミサカネットワークを司る存在なの。 そして打ち止めを介することで、その気になれば妹達全体を操ることが可能となる。 これだけ言えば打ち止めの持つ危険性は分かるでしょ?」「…ああ」「だから打ち止めのことをあなたに託したいの」「でも俺は暗部の人間で…」「あなたを見てれば心まで闇に染まってないことは分かるわ。 それにあなたが上の人間に対してある程度の権限を持っていることも。 私達に対する生殺与奪の権限が与えられいるのがその証拠。 本来なら上の人間にとって私達を生かしておくメリットなんて何もないんだから。 だからあなたの力を使って打ち止めのことを守って欲しいのよ」「分かった」「ありがとう、よろしく頼むわね」上条は制圧が終わったことを下の人間に連絡して天井と芳川を連行させる。芳川は心まで闇に染まってないと自分のことをそう言ったが果たしてそうだろうか?上条は自分への自問自答を繰り返す。確かに上条は二人のことを殺さない道を選んだ。そして二人に二度と非人道的な実験をさせないことを上に約束させた。しかしそれ以上の約束を取り付けることは出来なかった。要するにこれから二人がどうなるかを上条は全く知らないのだ。逆に命を奪わなかったことで二人が必要以上に苦しむことになるかもしれないのだ。しかしここで立ち止まるわけにはいかない。自分の偽善に悩みながらも上条は前へと進む。上条が奥の部屋に足を踏み入れると守ると誓った少女をそのまま小さくしたような10歳くらいの少女が眠っているのだった。やがて一つの大きな事件を乗り越え上条の初めての夏休みが明ける。二学期に入っても上条の周りで起きる事件は後を絶たなかったが、何とか上条はその危機を乗り切っていった。そして迎えた学園都市最大の行事である大覇星祭。この物語におけるヒーローとヒロインの両親が学園都市を訪れる時、物語は大きくうねり始める。
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life 初春や白井と合流した美琴達は佐天の部屋にいる。 クリスマスツリーの飾り付けも終え、夕食の料理をテーブルに並べていく。 キッチンでは初春が最後のポテトサラダを盛り付けている。他3人は席について初春待ちだ。 「ところでお姉様はどのようなものをプレゼントに?」 「アンタねぇ、それ言ったら楽しみがなくなるでしょうが」 美琴は呆れたように溜息をつく。 「そうですよ、白井さん。きっと物凄く素晴らしいプレゼントを用意してくれてますよ。ね、美琴さん?」 「あははは。そんなに期待されると渡しにくいんだけど……」 (さっきはあんなに照れながら呼んできたのに) 美琴は佐天の適応力に驚きつつ、その期待の満ちた目線から逃げるように顔を背ける。 その背けた視界には、両手でポテトサラダが山盛りにされた皿を持つ初春が入る。 「あ、れ?」 美琴は驚いたような顔で初春を見ている。さらに盛られたポテトサラダが『残ったジャガイモを全部使いましたよ』なんていうくらいの大量だからではない。 初春の顔が青ざめていたからだ。まるで怖いものを見たかのように。バイオリンを教えて貰っているところを見られたときのように。 美琴はゆっくりと初春の目線をたどる。白井のいるであろう空間には、壮絶な顔の空間移動能力者がいた。 「お、お姉様?」 「どうしたのよ、黒子?」 「いつからなのですか……」 「な、なにが?」 じとーっとした目で白井は美琴の顔を覗き込む。 「いつの間に上条さんから佐天さんにお乗換えに?」 「なにを勘違いしてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 美琴はその右手を真っ直ぐと突き出し、白井の顔面へと突き刺す。うげ、と言い残して白井は後ろにバタンと倒れる。 「なにがあったんですか、御坂さん?」 初春は持っていたポテトサラダをテーブルにドンと置く。 美琴が白井に鉄槌を下すのはよく見る光景である。スルーしても良いのだが、今回は違った。いつもは『からかう側』の佐天が顔を赤くしているのだ。 上条の告白シーンを除いたときに佐天が思っていたより乙女であることを知ったので、美琴の惚気話で盛り上がったのだろうと思ったのだが。 「いやね、私が当麻から涙子に乗り換えたんじゃないか、って話で」 「…………佐天さん」 「どしたの、初春?」 目を丸くしたままの初春に佐天は首を傾げる。 「いつから御坂さんに乗り換えたんですかっ!」 「だから乗り換えてないって!っていうか、誰から乗り換えたっていうのよ」 「私から!花が無くても好きって言ってくれたじゃないですか!」 準備は出来たのに、パーティが開かれるのにはまだ時間がかかりそうだ。 『必要悪の教会』のパーティが英国式教会では、名目上クリスマスパーティと銘打った宴会が繰り広げられている。 参加者の殆どが天草式のメンバーであり、上条的には『ぶっちゃけわざわざ集まる意味あんのか?』と思えるようなものであった。 上条は周りを確認する。さっきまで隣にいた筈のインデックスは『食べ物がいっぱいあるんだよ』と言って走って行った。 料理の置いてあるテーブルは今頃戦場となっているであろう。確認したくもない。 と言っても、教会の至るところで色んな人が盛り上がっていて、酒池肉林状態になりつつある。 「あー、みんな好きなのね、お祭りごと」 イギリスでの集団晩餐のときのように、1人取り残され気味の上条は食事するのも諦める。 「あ、もしもし………か、上条、さん」 「うん?」 後ろから声をかけられ振り返る。そこにいたのは―― 「うおぉっ!?せ、精霊さんっっ!」 「そ、そんなに驚かなくてもっ」 あわわわわと口をぱくぱくさせる大精霊がいた。 「どう、ですか?」 『大精霊』と化した五和は、その場をくるりと回ってみせる。 チラメイドという名のはずであるが、チラどころではなく刺激は強い。 胸元は大きく開いているというか見えまくっているし、スカートも短い。なおかつ上下セパレートによるへそ出しである。 「なんつーか、思ってたよりエロいな」 上条はできるだけ見ないように努力するも、どうしても目線がよからぬところにいってしまう。 (思ってたよりも、でかい!) 何がでかいと思ったのは上条にしか分からない。 「私の部下をそんな目で見ないでください、上条当麻」 後ろから声が飛んでくる。神裂火織のものだ。 上条の脳裏に堕天使が降臨する。数時間前にもフラッシュバックして悩まされた堕天使にモノ申すべく、勢いよく振り返る。 「神裂!テメェまでエロい格好してんじゃねぇ!―――って、あれ?」 神裂はいつも通りの恰好であった。 「んなっ!?人聞きの悪い!どこがエロだというのですか」 「うううっせぇ!その姿も十分エロいと言ってるんです。あー、もう堕天使エロメイドかと思って焦りましたよ」 上条は神裂の『相変わらずのエロさ』に半分安堵し、『いつも以上のエロさ』出なかったことに半分残念に思う。 「か、上条当麻、何を残念そうな顔をしてるんですか!今すぐ外に出なさいっ。その記憶を吹き飛ばしてあげましょう」 「神裂さん、殺す気ですか?」 腰に付けた『七天七刀』を手に持つと、聖人の腕力をいかんなく発揮して上条の襟元を掴みあげる。 「ちょっと待てって、神裂!悪かった!エロメイド姿のお前を想像した上条さんが悪かったです!許してぇぇっ」 「黙りなさい!!なに、以前のように傷だらけにはしません。『唯閃』は一撃必殺ですから」 「うわぁぁっ、マジで殺す気ですよ、この人!い、五和さん、見てないで助けてください!」 「え、あ、女教皇様!待ってくださぁぁぁいっ」 その後、教会の外では大精霊と聖人の戦いがあったとかなかったとか。 パーティも終わりの時刻を迎え、美琴は1人で歩いている。 あれから佐天との仲を問い詰められ、上条との一件の話になって、初春の事も名前で呼ぶようになって。 ようやくパーティが始まったかと思えば、メインのプレゼント交換では大騒ぎであった。 というのも、初春に渡ったプレゼントが美琴も見ていたあの紐パンだったのだ。 犯人は白井で、本人いわく『お姉様に渡ることを望んでいましたのに』だそうだ。 当然、初春は『酷いと思いませんか、るるる涙子さん?』と言っていたが、佐天に『ごめん、私もそれにしようかと思ったよ。もちろん、飾利用に!』なんて言うのだ。 『実は私も』なんてカミングアウトなんて出来るわけもなく、少し後ろめたい気持ちで初春を慰めることになり。 そんな初春の頭を撫でたら白井が暴走を始めるわ、佐天が羨むわで正直、疲れるものだった。 ちなみに、美琴の貰ったプレゼントは初春からのブランケットだった。 話を戻そう。 美琴は1人で歩いている。初春は佐天の家に泊まるらしいが、普通なら白井と共に寮に戻るべきところだ。 美琴の目指す先は、上条の寮。 結局は全員に吐かされた上条との一件の解決するべく、美琴は単身で乗り込もうとしていたのだった。 十字教のパーティが何時に終わるかは分からなかったが、美琴は上条が帰ってくるまで待つつもりであった。 決心の揺れないうちに聞いておきたかった。疑念が膨らまないうちに話して欲しかった。 どこか思いつめたような表情で歩いていると、天の悪戯なのか、見知ったツンツン頭と白いシスターの後姿を発見する。 美琴はぷらぷらと歩いている2人の方に駆けていくと、大きく叫ぶ。 「待ちなさい、当麻、インデックス!」 振り返る。上条はギョっとした顔で。インデックスは友達を見つけたような人懐っこい顔で。 「あ、みことー。メリークリスマスなんだよ」 「メリークリスマス、インデックス。その様子だとパーティは楽しかったみたいね」 七面鳥がおいしかったんだよ、とじゃれてくるインデックスを撫でながら、美琴はバツの悪そうな上条に目をやる。 「何か用かよ」 上条は目線を合わせずにぶっきらぼうに問いかける。 「別にアンタに用はないわ。私はインデックスに話があってきたの」 美琴は驚いている上条に構わず、インデックスの手を取る。 上条からは恐らく『本当の理由』を聞き出せないであろう。ならば、隣の同居人に聞いてみよう、というわけだ。 「わたしに、話?」 「そ。ちょっと付き合いなさい」 「むむむ。その様子からみると重要な話なんだね。わかった」 インデックスは頷くと、美琴の手を握り返す。 「とうまは先に帰ってて」 「ど、どういうことだよ美琴」 「後で全部話すから、先に帰ってて。お願い」 美琴はそう言い残すとインデックスの手を引いて行った。 上条にはそんな美琴を呼びとめることも、その背中に声をかけることさえ出来なかった。 (あんな目されたら、なんも言えねぇじゃねぇか) 恐らくは明日の件であろう。上条は配慮の足りなかった自分を責める。美琴にあんな顔をさせてしまった自分自身を。 どれくらいそうしていただろうか。 上条はふと我に返ると時計を見る。すでに帰って来てから1時間は経っていた。 言われた通り寮まで帰ってきた後、ベッドで横になりながら考え込んでいた。自分と美琴の関係について。 (俺はアイツの事を、全然わかってねぇんだよな) 上条は悩む。美琴の心を分かってやれない事に苦悩する。 (泣かせねぇとか守るとか言いながら、あんなに悩ませといてよ) あれから2人とも帰ってくる様子はない。連絡すら来ない。 何も教えられずに待つことがこんなに辛いなんて、と上条は思う。 「情けねぇな」 上条の言葉は静かな部屋の壁に吸い込まれるように消えた。 こんこん。 静かにしていなかったら気付かないくらいの小さな音で、扉がノックされる。 上条は自分でも驚くくらいの速度で跳ね起きると玄関に向かうと、遠慮がちに扉が開き、俯いた美琴が入ってくる。 美琴1人。インデックスの姿はない。 上条がその事を聞こうとした瞬間、ポケットに入れっぱなしだった携帯が震える。 インデックスからのメール。『きょうはきょうかいでとまるから、ふたりでゆっくりはなしあってほしいんだよ』 まだ変換もできない稚拙なメールであったが、文面異常に伝わるものがあった。 「………とりあえず、上がれよ」 「うん」 さっき別れた時のぎこちない空気のまま部屋の中に移動する。 「なんか飲むか?」 「ううん。いいから、こっち来て」 キッチンに向かおうとする上条に、美琴は座るよう促す。 初めて来たときのように、ガラステーブルに向かい合う。 「話があるの」 「俺にもある。お前に確認したいことが。でも、先に話しちまってくれ。全部聞いてからにする」 上条は真っ直ぐに美琴を見つめる。 じゃぁ、と呟いて美琴は小さく息を吐いて続ける。 「どうして、黙ってたの?」 「…………な、なんの話だよ」 「明日と、今日の話よ」 キッとした目で真っ直ぐと見据えてくる美琴に、上条は目線を合わさられない。 「明日の事は確かに言ってねぇけど、今日の事は教会に行ってるって言っただろ」 「それだけじゃないでしょ。今更、何を隠そうとしてるのよ?全部、インデックスが話してくれたわよ」 上条は顔をしかめ、下唇を噛む。 「もう1度聞くわ。どうして?インデックスが明日の朝で帰っちゃう事黙ってたの?」 「………それは」 「私の顔を見て話して」 美琴は上条の両頬に手を当て、無理矢理に顔を向けさせる。上条は抵抗を試みるも、美琴の目は本気だった。 (言うしか、ないよな) 上条は小さく笑うと両頬に当てられている美琴の手をとる。美琴が少し驚いた顔をするが構わずに、話を始める。 「インデックスから帰るって話を聞いたのは、昨日の夜。お前に告白の返事をして、部屋まで帰ってきた後のことだ」 上条が帰ってきた後、ベッドの上にいたインデックスが涙ながらに話してくれたのだった。 実は以前から決まっていたこと、上条が悩んでいる間は言いたくなかったこと、分かれる前に上条に想いを告げたかったこと。 「お前に黙ってたのは………なんていうかな」 「遠慮してってわけ?」 「まぁ、そんなところかな」 上条はバツが悪そうに答える。何かを隠してる、美琴は考える。上条は本心を言いたがらない。 「嘘、ね」 「は?」 「嘘。アンタは私に遠慮したのかもしれないけど。家族であるインデックスとの問題に、私が首を突っ込むのを良しとしなかった。そうでしょ?」 「………」 上条は答えられない。美琴の言ったことが、寸分違わず自分の本心だったから。 (お見通しか) 上条は諦めたように肩をすくめてみせる。これから先も苦労しそうだな、と思いながら。 「そうだよ。俺はインデックスを家族だと思ってる。だから―――」 上条が全て言いきる前に、その言葉は中断された。美琴の右手が、上条の頬をはったから。 「アンタはっ!人の話には首を突っ込んでくるのにっ、なんで自分のときは話してくれないのよ」 「………美琴」 「私と『妹達』のときは無理矢理にでも入ってきたでしょう?」 美琴は泣いていた。そのことが上条の心に響く。赤くなった左頬よりも。 「それに、私は……インデックスの友達なの!親友なの!どうして、別れの一言もなしにサヨナラさせるつもりだったの?」 「………」 「今日だって、インデックスや、他の子達、英国に帰っちゃう人とのお別れ会だったんでしょ?」 「……ああ」 名目上は『クリスマスパーティ』であったが、その本質はお別れ会であった。 神裂をはじめとした、天草式とステイル、それにインデックスは本格的に英国付になる。 第3次世界大戦の終結を迎えたことで魔術師の抗争も沈静化した現状では、イギリス清教が学園都市で仕事をすることもないだろう。 必然的に、会う機会は減る。『遊び』には来れるものの、そうそう来れるものではない。 だから、お別れ会として盛大にパーティをすることになったのだった。 「でも、お前の知らない人間ばっかりだし。流石に、連れて行けねぇだろ」 「分かってるわよ、そんなの。じゃぁ、なんで明日も会えないっていうのよ?」 「インデックスを見送って、その気持ちのままお前に会うのが失礼だと思ったからだ。沈んだまま、クリスマスなんて楽しくねぇだろ」 「なんで1人で見送りする前提なのよ。私も、連れてけって言ってんの。2人で見送ればいいんでしょうが」 美琴は上条の胸に右手を叩きつける。力のこもらない弱々しいものだった。 「2人で分かち合ったら、悲しみもちょっとは和らぐでしょうが……なんで、全部…1人で、抱えようとすんのよ」 上条に思いのたけを全てぶつけた美琴の声は涙で消えそうだった。 「ごめん、美琴」 上条は目の前で泣きじゃくる美琴を抱きしめる。自分の足りないところを埋めるかのように。 「落ち着いたか?」 「……うん」 上条は美琴が落ち着くまで優しく抱きしめていた。目を泣き腫らした美琴が頷く。 「そうだよな、なんで考えなかったんだろうな」 「アンタは、視界が狭すぎんのよ。サイじゃないんだから、偶には周りも見なさい」 私も人の事言えないけどね、と美琴は続ける。 「ほんとうに、お前はすごいよ」 「すごくなんてないわ」 美琴は上条に抱きしめられたまま身をよじり、その胸に頬を寄せる。 「インデックスの見送りなんて言いながら、明日当麻と一緒に居れることを喜んでる。そんなズルイ人間なの、私も」 「…………」 美琴の言葉を否定するように、上条は美琴を抱きしめる腕に力を込める。腕の中にいる美琴の良い香りが、上条の心を癒す。 「美琴………」 「なに?」 美琴は上条の顔を見上げる。目線は合わせてくれないが、上条の顔は優しげだった。 「ほんと、悪かった。さんきゅーな」 上条は照れくさそうに、にやっと笑う。美琴が想う上条らしい笑顔で。 「ねぇ、悪いと思うならさ。お願い聞いてくれる?」 「あぁ、いいですとも。愛しの美琴たんに迷惑をかけてしまいました上条当麻になんでもおっしゃってくださいませ」 上条は鼻をふふんとならすと、美琴の耳元で何でも言ってみろと囁く。 耳元で囁かれた事で顔を真っ赤にしてドキドキと動揺している美琴は、大きく息を吸うとニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべる。 上条はそんな笑顔に違和感を覚える。 (あれ……もしかして俺、地雷踏みました?) だがもう後の祭り。口から出てしまった言葉を打ち消す能力は上条にはない。 「今日1日、私の言う通りにしなさい」 「分かったよ、どうせアレだろ?お前が寮に帰るまでだろ。たいして時間ねぇぞ?」 上条は少なくとも大覇星祭のときのような事にはならないだろう、と安堵する。 「何言ってんのよ。今日は、泊まっていくわよ?」 「はぁ?なに言って―――」 「言う通りにするのよね」 「そうですね、すいませんでした」 上条が抵抗の意志をみせた瞬間、美琴は右手をビリビリと帯電させるとテレビに向けていた。 『家電が順番に死ぬけど、いいのかな?』と暗、いや明らかに示している美琴に、上条は無条件降伏を飲んだ。 「なんだよ、明日の朝までは付き合えってことか?」 上条は美琴に回していた腕を離すと、美琴が不満げな顔をしているのも無視してその場に寝転がった。 「そうやって何でも勝手に判断しちゃうのは当麻の悪い癖ね」 美琴は携帯を開くと上条の目の前にズイと出す。いつの間に撮ったのか、待受けが上条の寝顔になっているのはツッコミ待ちなのだろうか。 「美琴サン?なんなんでせうか、この写真は?」 「私がマンガ読んでる横で寝てたから撮ったのよ。それ以来ずっとこれが待受け」 (と、いうことはですよ) 上条は顔を赤くしている美琴を見つめて思い出す。そもそも、美琴が上条宅に来るきっかけとなったのが月曜に出るマンガ雑誌だった。 何かにつけて家に来たがる美琴が、そのマンガ雑誌を読んでる横で上条が寝ていた事はある。どうやらその時に撮られたらしい。 (ということは、アレか。何かにつけて俺の部屋に来たがったのは、俺に会うためか) 上条はマンガを言い訳にやって来る美琴を思い出してみる。あの時は正直、鬱陶しいくらいだったが本心を分かった上で考えると非常に可愛い行動に見える。 「なぁ、美琴………お前、思ってたより可愛いやつだよな」 「んなっ!?」 「あ、外見は前から可愛いと思ってたんだけどよ。こんな写真待受けにしたり、マンガ口実に俺の部屋に来たり……」 「ととと当然何を言い出すのよ、このばかっ!」 上条は腹筋を使って起き上がると、美琴は耳まで真っ赤にして煙でも出そうな美琴の頭を撫でる。 「こんな可愛い美琴たんをスルーしていたなんて。上条さんは昔の自分を殴ってやりたいですよ」 「ふふふ、ふにゃぁぁぁ」 右手で撫でられているので漏電することはないものの、全身の力が抜けた美琴は体重を上条に預けてしなだれかかる。 上条はそんな美琴の行動が『甘えて来てる』と勘違いしたのか、その頭を優しく撫で続けるのだった。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Daily Life
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とある少年の泥酔騒動 3 薄暗い通路を歩いている上条当麻はいまだに美琴を背負っており、美琴は上条に身をゆだねている。結標淡希と別れたあとちょっとした小競り合いがあったのだが、上条が美琴を先程と同じ手で黙らし、美琴は顔を真っ赤にしたまま俯いていた。そもそも美琴は上条から離れたいわけではない。ただ、狭い通路をすれ違う大人達の視線がとても痛い。しかし上条は決して離そうとしない、どんなに美琴が抵抗してもだ。これはこれで生粋のツンデレにとっては嬉しくもあり、恥ずかしくもあるのだ。美琴は上条から逃れることを諦め、気をまぎわらせるために先ほどから抱いているちょっとした疑問を上条に聞いてみる。「……ねえ」「どしたのミコっちゃん?」「よくよく考えたらなんでデパートに行くことになってんのよ」「ん?」「なによその今更~みたいな顔は!私はいつの間にかアンタにおおおおお持ち帰りされてたのよ!!!!」早口で当然の疑問をまくしたてる美琴。とりあえず上条には伝わったと思って上条にしがみつく。しかし確かに伝わったのではあるが上条には意味が分からず、?が浮かぶ。「なにいってんの?」「は?」「いや、ミコっちゃんだいじょぶ?」「ちょ、ちょっと待って!」「あ~わかった。なにも言わなくていい」(なにをわかったのコイツ?)顔を上げ、首を傾ける美琴。すると上条が(美琴視点で)とんでもないことを口にする。「ミコっちゃんの分もいるってことだな~」「……………も?」「うん」 美琴の表情が凍る。も、ということは自分一人ではないということだ。それに美琴は大きなショックを受ける。有り得ない、コイツがそんなことするはずないと否定に走るが、真実を確かめるべく上条に聞く。「アンタ、私以外に誰かいるってことを言ってんじゃないわよね」「いるよ?」「なっ!!!!」「そんな驚くことかね?」「この……ッッ!!最低だわアンタ!!」信じていたのに…アンタだから受け入れたのに…美琴は裏切られたことに大きな怒りを覚え、上条を怒鳴りつける。しかし上条には?マークが大量に浮かぶばかりだ。「?お嬢様の口に合わないんすかね~」「わ、私とその女でやらせるつもりなの!?」「いや、どっちも俺が準備する」「さささ最初だけってこと?アンタはどうすんの!」「え、俺も食うよ?」「く、食う……」「そりゃそうだろ。なんで俺だけおあずけなんだよ」上条はムッとした表情になる。当然のように放たれてくる言葉に美琴は混乱し、思っていることを口走ってしまう。「私は…は、初めてだからさ…普通に一人ずつがいいな…」「え~めんどっち」「め、面倒臭いとか言わないで!!ゴメン、我慢するから…」「ん?おう」めんどくさいその言葉に過剰な反応してしまい美琴は泣きそうな顔で懇願する。一方、上条は余計な手間が減ったと鼻歌を歌って上機嫌になる。その上条の姿でさえも美琴を苦しめる。”惚れたら負け”そんなことを思い出してしまう美琴だった。ん?なにが起こったかわからないって?まず上条はもやしを調理してインデックスと美琴と一緒に食べる、と考えている。それに対して美琴は上条に食べられr…、さらに上条はほかの女も食べr…と考えている。挙句の果てに美琴と他の女による“そういうプレイ”もさせられる、とまで話がぶっ飛んでいる。上条は泥酔中、美琴はこの手の会話に慣れていないため具体的なことを言わない、これらよって正しく話ができていない。こんなことを超鈍感泥酔中の上条が気付くわけもなく、美琴は一人複雑な心境に陥ってしまう。結果、今の状況に耐えられなくなり…「ゴメン…やっぱ私帰る」「なにおう!?やっぱ口に合わないのか!!」帰ることを決めたが、上条の変なテンションに怒りを覚えてしまう。上条自身はもやしのことを考えているため軽い?調子になるのは当たり前だ。というよりも、もやしで重たい話なんかする奴いるだろうか?しかし美琴はまさに重たい話をしているため上条に強く当たる。「うるさいわね!!なんでアンタはそんなんでいられるのよ!!!」「へ?だって安いし…」「っっっ!!!!!!」「?」当然とでも言いたいのだろうか、上条はキョトンとしている。その表情が元で美琴はついに激昂する。「もういいわ」「ちょお!!ミコっちゃん暴れるな!!危ないって!」「私はそんな安い女じゃないわよこのクソ野郎!」「な!?いくらお前がお嬢様であってもな、あいつの味だけは馬鹿にできねえぞ!」「だからってなんで一緒に食べるのよ!!!」「そりゃ一緒の方が楽しいだろ!!!!」「このクズが!!!死ね!!!」「死ね!!??反抗期にも程があるだろ!?」ギャーギャーと騒ぐ上条と美琴。もはやつかみ合いになっており、美琴は上の位置にいるため当然上条が不利である。 「危ねええ!!」「ちょ!うわ!!」言葉を発する間もなく美琴が宙に放り出される。ズドン!!あたりに鈍い音が響く。(…あれ?すごい落ち方したと思ったのに痛くない)美琴が疑問に思い、まぶたを恐る恐る開けてみると「…ミコっちゃん。可愛いのはいてんな」「なっ!なああああ!!!!」上条の上にうつ伏せていることがすぐわかった。しかも上条の声は自分の膝の間付近から聞こえている。つまり…上条はスカートの中を最高の位置で見ているのだッ!!!「何見てんだエロ野郎!!!」「ぶごッ!おい蹴るな!ってか目の前だから丸見えだっつーの!!!」「いいいいいやあああああ!!!!!!」シュパパパ!!とでも効果音がつきそうな早さで上条から離れ立ち上がる美琴。と、いつも鉄壁のガードを誇っているはずのスカートの中について上条の言葉で疑問を感じてしまう。「ん?アンタ、可愛いのって」「でもその歳でカエルはないだろ」「へ?まさかあああああ!!!!」美琴がスカートの中をさわってみるとそこには短パンが綺麗サッパリになくなっていたのだ!!!!!「でもなんで短パン履いてないんだ?」(あ、あのヤロウしかいないわ!!同じテレポーターなら発想も同じだとしてもおかしくない!!!!)よくよく考え出すと結標が能力を行使したときにテレポートの音は確かに鳴っていて、何かが移動したことがわかる。上条の“幻想殺し”があるにも関わらずだ。(ってことはコイツにみ、見られ…)「まあ絶景だったけどな」「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」バチバチと帯電し始める美琴。同世代の男にパンツを見られた恥ずかしさに漏電してしまうが、その量は半端じゃなくあたりで煽っていた人々は顔色を変えて逃げ出すほどだ。「み、ミコっちゃん?」「ふ」「はい!不幸センサービンビンに来ております!!!」ビシ!!と敬礼する上条。逃げる間もなく、まるで戦場に向かう兵士のように目の前の爆弾に立ち向かう!「ふにゃああ!!!!!」「ふにゃり」10億ボルトの雷撃を余裕でかわす上条。しかし次から次へと致死量の雷撃が上条に向かって理不尽に放たれる!「ふにゃあ!ふにゃ!!」「ふにゃりからのゲンコロ!!」「にゃあ!!にゃ!!!ふにゃあ!!」「ゲンコロゲンコロおおお!!!!」「にゃああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」「ゲンコロおお!!!ゲンコ」「ふうううううにゃあああああああアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」「あ」ズバチィィィィィィィ!!!!!!!辺り一帯を雷撃が包み込む。断末魔を上げる暇もなく上条は灰になった。その胸に、あれがこうやってあんな角度で見れるなら(俺は何度でも死ぬるッッ!!!!!!!)その熱い想いを残して。-To be continue-
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とある乙女の恋事情 2 看病編 しかし、美琴の口は堅く自分の意思でも開こうとしてくれない。その状況に美琴は地団駄を踏みたくなる。(どうして・・?今まで想っていた気持ちを言うだけなのに、自分の心に素直になるだけなのに・・・)美琴は自然と俯きかけていた。それを見た上条は「・・何か悩んでいるみたいだけど、どうかしたか?俺なんかで良かったら相談に乗るぞ」美琴は驚いた。今まで上条は人の気持ちに対してわざとじゃないだろうか?と疑いたくなるくらいに気付かない。美琴が上条に対する想いも含めて鈍感と言われるほどに「その顔を見ると図星みたいだな」美琴は考えるよりも前に言葉が出た。「どうして?・・どうして私が悩んでいるって解るの?」上条は美琴の言葉を聞いて少し遠い所を見るように目を細めて小さく微笑んだ。「なんていうかさ、お前がそういう顔をしているのを見るのって辛いんだよ・・・。」上条は以前にもこういう顔を見たことがある。美琴が妹達の事件で助けを求めたいはずなのに一人鉄橋の上で苦しんでいた時の顔。美琴も上条が直接言わないでも言いたいことが不思議と伝わった。上条は美琴に伝わったことを確認したかのようにまた言葉を紡ぐ。「俺は・・お前には笑っていて欲しい。俺が言った言葉覚えているか?」美琴は一方通行との戦いの後入院した上条のところに見舞いに行ったとき上条にかけられた言葉を思い出す。「・・・私は笑っていて良いんだってこと?」「そういうこと。お前は苦しいことや嫌なことを全部一人で背負い込もうとするだろ?もしさ苦しいこと、嫌なことで悩んでいるなら俺でもいい他の友達でもいいから頼ってみろよ。解決するかは別の話だけどさ、肩の荷が下りるというか楽になると思う」まぁ俺も人のこと言えないんだけどな、と言いながら上条は頭を掻いている。「・・あさ」「んー?」「じゃあさ、アンタも悩んでいることがあったら私に話すって約束してくれる?」「・・えっ!?で、でも俺の場合は巻き込まないよう__」ここで美琴に遮られた「約束してっ!」美琴は小指だけを立てた拳を上条の顔の前に突き出してきた。「えーっと、それはまあ何といいますかー、それとこれとではですねー」マニュアルを忘れた新人店員のような口ぶりの上条に美琴は「じゃあ私がずぅっと悩んでいる顔してても良いっての?さっき私のそういう顔見るの辛いって言ったの誰だっけ!?」上条はうぅっと唸りながら渋々了解したのか美琴の小指を取り指きりげんまんをする。「仕方ないか約束だもんな」どっちが困っていたか分からなくなるくらいに立場は逆転していた。はぁーっと溜め息を吐く上条を見て少し笑顔になる美琴は(コイツも何かあったら話してくれるってことよね?これは中々に良い取引だわ)と一人で背負い込むところも、相手の為に何かしたいと思うところも似たもの同士の二人である。約束を終えたので上条は本題に戻るべく言葉をかける。「で、お前は何に悩んでいるんだ?」約束したから言うんだぞ、という目をしている美琴は少し戸惑いながら応える。「もし、もしもの話だけど。私がこの学園都市から、アンタの目の前から消えたらどう思う?」上条はとても驚いた顔をして「お前っ!そんなに重い話だったのか!?」少し興奮気味の上条に対して美琴は冷静に「もしもの話よ。私が悩んでいることとは特に関係は無いから」「何だよ、驚かせんな・・」「それで、どうなのよ?ちゃんと質問に答えて」上条は少し悩んだみたいだが、すぐに答えは返ってきた。「正直それは考えられない・・・。俺の日常にはお前がいて当たり前なんだよ。お前の日常はどうかは分からないけど、少なくとも俺の日常にはお前がいて喧嘩したり、話したりするのが当然のことなんだよ!」それを聞いた美琴は胸が熱くなるのを感じた。とても強く、とても熱く、とても心地の良い・・・本当に美琴は嬉しかった。上条の中に美琴がいるということを上条の口から聞けた事に。もう口から言葉を出すことなんてできなかった。勝手に体が上条の胸に向かって動いている。不思議だと思うことなのに、思うはずなのに。今は不思議だとは思わなかった、可笑しいと思わなかった。だってずっと求めていた"もの"がそこにあるのだから。「御坂・・」上条も不思議と向かってくる美琴を抱きとめていた、抱きしめていた。そしてまた同様にそのことに対して上条は不思議だとは思わなかった。護るべき"もの"がそこにあるのだから。上条はそっと話す。「お前の日常には俺がいるのか?」美琴は自分が頭で考えた言葉よりも早く、心で想っていた言葉が出る。「私の日常にはね、アンタがいて、アンタが傍にいて、アンタと一緒に話してアンタと・・・」そこで美琴は上条に抱きついている力を少しだけ強くする。上条はそれに気付いたのか、そっと美琴の頭を撫でる。「私の日常にはアンタがいるよ。アンタがいることが当たり前。ううん、アンタがいなくちゃダメなのっ!」震えている美琴に気付き上条は優しく微笑み少し美琴を離して顔を見えるようにした。上条の両手は美琴の肩を掴んでいる。上条は美琴の目を見て話す。「そっか、お前が悩んでいたことって俺のことだったんだな」コクンと美琴の小さい頭が立てに振れる。「じゃあ、これからは背負うものが半分になりそうだなっ」上条は嬉しそうに笑う。美琴は驚いたように「・・えっ!?どういうこと・・?」「何だ、俺の勘違いだったか?てっきりお前は俺のことが好きなのかと思って両想いだから嬉しいなっていう」「両想い?じゃあアンタは・・・」「そうだよ。俺はお前のことが好きだっ!」美琴は開いた口が閉まらない。美琴は第三位の超能力者といっても中学生であることに変わりは無い。好きな人から告白されて嬉しさのあまり涙を流すことなど女子中学生にしてみれば至極普通のことである。涙が溢れ出すのにそう時間はかからなかった。「嬉しい・・・」「良かった、お前の喜びは俺の喜びでもあるからな。よく言うだろ感情を分かち合うことで喜びは二倍、悲しみや苦しみは半分にって。さっきの約束はそういう意味でも良いかもな」今度は上条から美琴を抱きしめた。そしてそっと唇を重ねた。風邪というのもあってか、泣きつかれたというのもあってか美琴はベッドで小さく寝息を立てている。上条は水に湿らせたタオルを美琴の額に乗せてベッドの脇に腰を下ろす。そこで上条は玄関のところに手紙が落ちているのを発見する。部屋に入ったときは美琴を負ぶっていたせいか気付かなかったらしい。なんというか白い封筒に三つ折にされた手紙が入っていた。そこまではいいのだが問題は内容だ。英語で書かれている、上条は赤点取ること必須な問題児であって読めるはずが無いのだ。仕方ないので埃を被っている英和辞書らしきものを引っ張ってきて頑張って訳してみた。思ってみたより文脈は簡単で短かったので訳すのに時間はそうかからなかった。内容は『拝啓 親愛なるとは程遠い上条当麻今回はインデックスにオルソラから暗号を解く手伝いをして欲しいということでイギリスに来てもらうことになった。君にはあの子の保護者という名目があるけど今回は危ないこともないので君がくる必要も無い。まあ僕にしてみれば万々歳なんだけど。こっちには護衛もいるから心配は無いよ。』というふざけた内容だった。ちなみに手紙の最後には見たことの無い文字があり、それを見て間もなくクラッカーのような爆発を起こして砕け散った。右手で触っていけば良かったと後悔する上条であった。差出人には名前が無かったが上条には一人思い当たる人物がいるのだがそれはほぼ確定しているので敢えてここでは伏せておく。これでインデックスがいない件に関しては解決した。(あっちには神裂や五和もいるし大丈夫だろう)と自己暗示して安堵する上条だった。その後上条は熱も下がり元気になった美琴を門限前に寮へと送った。あまり近すぎると上条の存在が他の人物にバレてしまうのを恐れ少し離れたところで別れた。しかし、二人とも数メートル歩くと互いに振り向いて手を振り、また数メートル歩くと振り向いて・・・というのを繰り返してなんとも初々しいという感じであった。今日は寝れそうに無いなと美琴は自覚した。実際、枕が潰れるくらいに抱きしめていたというのは言うまでも無い(目撃者:白井黒子)上条の日常と美琴の日常が交差した時、桃色空間が始まる!?
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就 <第二章> 学校に着いた上条は、まるで蝉の抜け殻のように本体がどこか遠くへ行って 授業の内容はちっとも耳には入らなかった。まさに「紙条」である。 そんな状態に陥ってしまったのは先ほどの美琴の言葉と、その後彼女から送られてきた一通のメールにあった。 『 送り主 御坂美琴 』 『 ほんとにゴメン。結構朝の時間ヤバかったのよ。 怪我してるかもしれないアンタを置いてったのはさすがに悪いと思ってる。 でもアンタも気を付けた方がいいわよ?…本当に。 助けてくれる人がいつも傍にいるなんて、そんなにないことなんだからね?ヒーローじゃあるまいし… ほんと、アンタの右手は神の御加護も打ち消すんでしょ?そしたらワタシといるとどんどん不幸になっちゃうわよ? もううんざりよ…なんせ、アタシには神様が付いてるんだからね♪打ち消されたらたまったもんじゃないわ! ……まあ、私がここんところ連続で運勢第一位なの、テレビ見てたら知ってるでしょ?アタシ、神様に愛されてるのかもね。 んでもって、水瓶座のアンタは連続で最後尾よねm9(^Д^)プギャー ご愁傷さま~~、キャハ☆ …こういった厭味ったらしい女より、もっと素敵な人がぜぇーったい見つかるわよ……きっと。 まあ時間がないっ!ときてるから率直に言うわよ。告白の返事は【NO】ってことで。 それでね、なんか告白受けちゃうとさー、どうも今までの関係が崩れちゃいそうなのよね。 だからしばらく距離置きましょ?取り敢えず一ヶ月くらいでOK? それじゃ、次会うときは私の卒業式くらいよね、さみしいなー。+゚(゚´Д`゚)゚+。 絶対私の晴れ姿見に来てよね!忘れんじゃないわよ~! じゃあねー P.S. 返事よりも…分かったらまず行動で示しなさいよ~ 』 … やけに長い文章だな、真面目に授業を受けてるのか? ――そんな感想は流石に出なかった。 告白に失敗したことが分かった上条にはもう明日が見えない。もう留年だろうが関係ない。 ついに、夢が正夢になってしまったのだから… ・ ・ ・ そんな上条を気にして、友人二人は密かに話し合っていた。 (かみやんどうしたんや?また不幸なことでもあったんかい?) (いんや、アレはそんな些細な不幸で悩むタマじゃないぜよ。) (…さては何か!ワイの小萌先生に『上条ちゃん課題提出できなかったので留年ほぼ確定なのですよ~』 と言われたことまだ気にしてるのかいな!) (そうでもないようだにゃ~ってそれは初耳ぜよ!) (ワイに小萌先生の事で知らない事なんかないんやで~!しかもまた小萌先生と同じクラスなるかも、なんて… 羨ましいにも程があbbbbbb) (どうした変態スネーク、応答せよ、応答せよォォ!…ハッ!) 留年という言葉にも、今現在過敏になりつつある上条にとって、手を伸ばせば届く距離まで 迫って顔色を伺おうとする友人達の優しさすら虚しく、禁句を容易に放ったロリコン野郎には 鉄槌を下し、それを聞いてしまった男もまた華々しく散らした…。 「…ったく、何やってんだよお前ら。」 「ぐふっ、…カミヤン、今日はどうしちまったんだ?やっぱり情報は正しかったのかにゃー?」 「どこから漏れたのかは知らないが、まだ留年と決まった訳じゃねえからな。『ほぼ』だからな。」 「…いや~、久しぶりに本気の一発入ってもうた。だがまだワイは負けとらんで~! 先生と共になら例え火の中・水の中!、ワイは留年もなんのそのや~!」 「お前はいい加減そういう思考はやめろ!」 「そこの三馬鹿、黙って席に着きなさい!HRもう始まるわよ!」 ――俺はひとまず御坂とのことを、頭の片隅に置いておくことにした。 ◇ HRは短時間で終わり、そろそろ下校しようと思った時 先程小萌先生と、ある約束をしたのを思い出した。 『今日は補習も課題も出しませんでしたので、真っ直ぐ帰宅したらワタシのところに来てください。 今後の上条ちゃんのことについて重要なことを述べさせいただきますよー』 「…何かとてつもなく嫌な予感がするのですが、」 魔術師との戦いが一段落してからこれまで毎日補習・課題の繰り返しで、ろくに飯も食えないときがあったのだ。 こんな身近な幸福さえも疑ってかかってしまう。特に上条の場合はなおさらである。 彼には「幻想殺し」という摩訶不思議な能力を持つ右腕があるが、その能力は何も異能にしか 効かないわけではない。先ほど美琴が言ったように、他に効果を及ぼすモノがある。 『神の御加護』と『運命の赤い糸』を打ち消してしまうのだそうだ。 伝聞形式になってしまうのはその確証がないからである。しかし信憑性は非常に高くなった。 『運命の赤い糸』はともかくとして、常に不幸な上条にとって滅多に訪れることのない幸運は、 美琴との間におけるとんでもない不幸の前触れである。何かあると思うがこれ以上はないと思っている。 おそらく、幸運が前に来てしまったのだろうと、上条はまた無理矢理解釈した。 ――という訳で、ぶつぶつ独り言を吐いていく内に、俺は自宅の玄関の前まで来てしまった。 ガチャッ、 「…ただいまー」 … … … バタン。 当たり前の事だが、一人暮らしの学生マンションに帰ってきても出迎えてくれる人はいない。 それなのに彼が律儀にも帰りの挨拶を無人の部屋にしているのには理由がある。 彼には数ヶ月前まで同居していた銀髪のシスターがいたのだ。 その彼女もまた小萌先生の計らいで先生の住むアパートに居候させてもらっている。 何しろ調理・掃除・洗濯がまともにできず、一人ではここ科学の町では生きられない程、生活力の乏しい少女だったのだ。 先生も色々彼の負担を考えた上でそういう計画を立案してくれたのだろう。 だが彼女には他の人が持ち得ない優しさがあったりもして、少なからず以前の生活にも愛着があった。 もしその彼女が帰っていたときに、その優しさに触れるだけの態度をこちらが示さないと、彼女は年相応の 態度として上条の頭にかぶりつく。これが彼の不幸であり、今なお帰りの挨拶を忘れない理由であった。 ・ ・ ・ 一通り荷物の整理を終えて、夕飯も軽く済ませた上条は 小萌先生のアパートに行く間の道で、メールの内容をもう一度咀嚼してみた。 (…確かにここんところ、アイツの運勢が飛躍的に上がったのは頷けるかもしれないが、 それでも神様に愛されてるって、流石にオカルトもいいところだろ……) ――だが、確かにその通りなのである。 時は数週間前に遡るが、上条は知る由もなかったのだ。 ――美琴が本当に神様に愛されてしまった真の理由を… ◇ ◇ ◇ 小萌先生の住むアパートに到着すると、インデックスがまず一番に出迎えてくれた。 ただでさえ上条は人一倍不幸な目に逢うことが多いので、心配していたと見える。 「遅いんだよとうま!どこで道草食ってたの!」 「お言葉を返すようですが、上条さんはどこかのシスターさんのように食べられるからといって 道に生えてる草なんかは食べませんのことよ?」 「そういう意味じゃないかも!まったく心配してたんだよ!」 「…ああ!そっちだったか。すまんすまん」 「二人ともー、そろそろこっちに来てくださ~い」 玄関で賑やかな声を聞き、呼びかけた小萌先生は焼肉の準備をしながら待っていたようだ。 「あれ、もしかして俺待ちでしたか?」 「そうなのですよー、インデックスちゃんはお腹からスタンドが出てくるような音を出して ずっと待ってくれてたのです」 「スタンド?」 「そっ、その話はいいかも!早くお肉食べよう、とうま!」 言われるがまま卓を囲むように座らされた上条に、「俺夕食済んでる」の一言を言う隙は与えられず 仕方なくその場の空気に同調した。 (まあ、どうせこの分量ならインデックスが残ったもん全部食べてくれるだろ) 以前は暴食気味だったインデックスも、このところは少し自重するようになってくれた。 先生の家に居候するようになったからではない。彼女の持っていた魔道書の毒が取り除かれたためである。 つまり、今のインデックスは103000冊の魔道書の毒に冒されずにいるのである。 無くした訳ではない。彼女に掛けられていた術式『自動書記』が今のインデックスに制御できるようになったらしいのだ。 そして自動書記の制御に伴い、彼女を内側から蝕んでいたと思われる魔道書の毒は体内で消滅できる仕組みになった。 魔術も本来備わっていた分が使える。鉄壁の防御結界『歩く教会』も元通りになった。 これらは全て上条が望んだことであり、記憶を失った少年が交わした約束を、守ったことにもつながっていた。 上条は普段味わうことのできない高級肉を二、三切れ食べたところで箸を置き、小萌先生の方に向き直って座った。 「先生、この催しは俺に普段以上の努力で頑張ってくれという励まし会のつもりなのでしょうか?」 「その通りなのですー。上条ちゃんは留年にならないために今必死になって勉強頑張っているようなので 先生も奮発しちゃったのです」 「……冗談はやめてください。先生まだ一滴もビール飲んでないじゃないっすか」 上条の言う通り、励ましや祝いの席で小萌先生がビールを飲まないのは珍しい。 だから受け狙いでそれらしく聞いてみた。 「しっ、失礼ですよ上条ちゃん!これは制限してるだけなのですよー!」とでも言ってくれたら良かったのだが、 突っ込むべき小萌先生は箸を持ったまま黙ってしまった。 少し間を置いて、切り出した。 「鈍感な上条ちゃんにしては上出来なのですー、これは明日しっかり課題を提出してくれる前触れでしょうかねー?」 「先生しっかりしてください。明日は祝日ですし、課題は出さない約束でしょ」 「…」 「先生、本当のことを言ってください。俺は覚悟できてますから」 真剣な眼差しで逃がさないように睨んでいる俺に、先生は固く結ばれていた口を開いてくれた。 「これは今日の内に決まったことなのですが…」 ◇ 俺が小萌先生のアパートを出る際は、お腹を膨らませたインデックスは横になって気持ちよさそうに寝ていて、 小萌先生も俺に話をした後は躍起になってビールを四・五本瓶ごと飲み干し、酔いつぶれていた。 彼女等を起こさないようにそのまま布団をかけて来たので、風邪を引く心配はしなくて大丈夫だろう。 大丈夫じゃないのは自分だろう。激しい吐き気と頭痛、それに何だか疲労が蓄積している。 酒を少し飲んだからかもしれないが、――問題は先生の口から出てきた言葉にあった。 『留年の可能性があったのですがその話は無くなりました 何でも私たちには説明できない事件や昨年の戦争に上条ちゃんが関わっていたので、 学園都市に子供を預ける保護者達が不信に思い、上条ちゃんの経緯について調べたそうです その結果「この街に住む生徒達にも何らかの弊害が出る恐れあり」という結論が出されたのです これは抗議行動にも発展する恐れがあり、統括理事会も擁護しきれない部分があるらしいのですよ そのため上条ちゃんをひとまず匿う形で、学園都市外の高校に転入させることで手を打ったらしいのです』 「ふざけやがって……」 全くもって不幸な出来事である。 上条は記憶を失うよりもずっと昔、学園都市の外に住んでいたことがある。 そこでは上条を不幸を招く『疫病神』として扱っていた。 仕舞いには包丁で刺されたり、テレビに出されそうになったりもしたそうだ。 だから“オカルトを信じない科学の町”である学園都市に来たのに、結局上の奴等の都合でたらい回しにされるのだ。 …しかし、上条は今回の事について強く否定しきれない立場にもあった。 保護者代表の御坂美鈴が今回出た結論に断固として反対していることはせめてもの救いであったのだが、 彼女の率先した行動を良く思わない者共が少なくないのだ。それが今回出された結論に滲み出ていた。 つまり、彼女がまた雇われスキルアウトの連中に狙われる可能性もあるのだ。 勿論上条にもこれを拒む権利はあった。 しかし、こうまで話がまとまっていて尚且つ不良高校生のレッテルを貼られている上条にしては 留年の件もなくなり、能力開発の単位の遅れを取り戻そうとする努力もしなくてよくなるのは まさに天の救いのようなものだった。 昨日の焼肉パーティーが最後の晩餐になってしまうのは切ないが、未練もなかった。 小萌先生も非常に申し訳なさげではあったが、今回の転入については悪く思っていないらしい。 ――それに、元から拒む道理のない、頼まれたら結局断れない上条にしてみれば即決だったのだろう。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― [翌日の火曜日・祝日] 上条はガンガンと響く頭を揺らしながら、学園都市を離れる上での重要事項を取りまとめるのに頭を使う。 「再来週にはこの部屋も手放すことになるんだよな…」 今日は身近なものの整理をする。そして…昨日までに出せなかった課題も終わらせる。 「立つ鳥後を濁さず、ってやつだな」 明日からはこの件がクラスの連中や友人達に漏れないよう細心の注意を払って生活する。 「特に青ピや土御門にバレないようにしなきゃな。…まあ何とかなるだろ」 来週にはインデックスをイギリスに帰す手筈を取る。一緒に付いて行くと言う可能性もあったのでこの話はまだ伝えていないが… 「難しいな…。歳が歳だけにまだ安心しきれないし…って、俺はいつからこんな世話焼きになっちまったんだ!?」 それから、それから… 「よし、こんなもんかな。…やれやれ、やっぱし深夜まで飲んだ上に普段使わない脳をフルに使うと かえってひどいな~」 ふぅっ、と重い息を吐き出し、依然続く頭痛に悶えたりして右手で頭を押さえた。 ――――― 何処かで、パキィインという音が聞こえた。 ――――― 「それにしても……後一つ……何か忘れているような………アッ!!」 よほど重大なことなのだろう。先程まで続いていた頭痛も綺麗に消えていくように表情は緩やかになった かと思うと、顔色はどんどん青ざめていった。 「御坂にまだこのこと伝えてねえじゃねえか!!」 ◆ 実は最後の決戦前夜に上条と美琴は二人の思い出の場所に立ち寄っていた。 そこで俺は美琴から告白『もどき』を受けていたのである。 齢十四歳。誰も助けを呼べない状況に忽然と現れたヒーローに一種の幻想を抱いているのだろうとそのときは思っていた。 しかし、彼女の想いは俺自身の単なる思い込みを遥かに凌駕していた。 彼女は最初に上条と会ったときは、それこそ「能力を打ち消すいけ好かない奴」如きに思っていたらしいが その場所で本当の彼を知ったことで、急速に惹かれていったらしい。 ―― 深夜の路上で不良に絡まれているところに俺が割って入ってきたこと ―― グラビトン事件において爆弾の盾になったこと 今も昔も、俺という人間が変わらずここに存ること… ―― 妹達(シスターズ)を悪夢の実験から解放したこと ―― 常磐台にいる彼女の後輩を助けたこと ―― 彼女の母親をスキルアウトから守ったこと それら全てが、良くも悪くもかけがえのない思い出で、 ―― 一晩中追いかけっこをしたこと ―― 恋人ごっこをしたこと ―― とある魔術師と大切な約束をしたこと ―― 大覇星祭の罰ゲームで携帯のペア契約をしたこと ―― そして、一緒に運命を懸けた戦いに挑むこと アイツの、一番の宝物であること… 答えなんて最初から決まっていたようなものだった。 世間体だの何だの考えていても仕方のないことだ。別に青髪ピアスのような 唯のロリコン野郎になることを気にしていたわけでもない。そんなものは時間が解決してくれるだろう。 だがその場で返事をすることはどうしてもできなかった。 インデックスや他の大勢の人々を悲しませたくなかったから? 己の不幸に巻き込んでしまうことが怖かったから? 記憶を失った己のたった一つの信念がゆらぐ恐れがあったから? …それらも当然あったのだが、本当は人に愛されることが堪らなく怖かったからである。 そして愛された分だけ、それ以上にその人を愛することができるのかが分からなかったのだ。 「それを考えるだけの時間を貰ったはずなのにすっかり忘れて告白で返しちまうなんて… どこまで馬鹿なんだ!俺は!」 自分の愚かさを嘆く暇はない。一刻も早くこの気持ちを伝えて謝らなければならない。 今日以外にアイツに会える日はあるのか分からない…もしこれで会えなかったら多分一生後悔するだろう。 そう思い、携帯の電源を入れようとしたが…電池が切れていた。 家の固定電話も、修理業者が来ない分には使えない状態に昨日からなっている。 なんと間が悪いことだろう。 「くそっ、直接行くしかねぇか!」 そう言うと上条はすぐさま着替えて軽く身支度をし、30秒後には自室を飛び出して 彼女のいる常盤台中学学生寮に走っていった。 間に合ってくれと祈りながら… ――俺に残された時間は余りにも少なすぎた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある少年の告白成就
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ローンソ×ラヴリーミトンフェア 「つ、ついに今日からゲコ太フェアがローンソで開始だわ……!」ここはとあるコンビニの軒下。時間は日付を変えて少し経ったくらい。少し小雨が降っている。美琴はさしてきた傘を閉じ、傘立てに立てた。いつもはその長身スレンダーな身体を制服に包んでいる彼女であるが、今はTシャツにハーフパンツという簡単な普段着に、肌寒いのでジップパーカーを羽織っている。何せ美琴は花の中学生。未成年の深夜徘徊は当然補導の対象となるし、制服など着ていたら一発で見つかってしまう。そもそも夜更かしはいろんな場所の発育にも関わりそうな気がするので、夜はきちんと寝ていただきたいところである。彼女のためにも。「日付変わって応募ページにもいけるようになったし、あとはモノを買うだけね!」発育の話はさておき、美琴は携帯のブラウザでローンソ×ラヴリーミトンフェアの特設ページを表示する。どういったフェアかというと、提携している店で対象商品を買うと1点につき1ポイントが貰え、一定ポイントごとに限定グッズ抽選に応募できるといったものだ。ちなみに美琴は買い物をしたあとのレシートはすぐに捨ててしまうタイプなのだが、今回のフェアでもらえるポイントは対象商品を購入したレシートにシリアル番号が表示されるものだった。そしてそれを応募ページで入力して初めて付与されるものなので、間違っても捨ててはいけない。「前回はお店で直接商品がもらえるタイプだったから、出遅れたせいで何にも残ってなかったのよね……」実はこのコンビニ、何度もいろんなジャンルでコラボフェアを行っており、前回のラヴリーミトンフェアの時は対象商品を指定された個数買うとその場でグッズがもらえるというタイプだった。美琴がいつも立ち読みをしているコンビニは別のチェーン店だったのでそのことを知るのが遅れてしまい、どこを探してもすでにグッズが品切れ状態という悲しい結果に終わってしまった。今回はその雪辱を晴らすためにフェア開催当日の深夜から行動を開始した、という訳だ。「よし、0時過ぎてる。待っててねゲコ太、絶対当ててやるんだから!」意気込んでコンビニに入る美琴。深夜で小雨も降っているからか、客はいなかった。店員も見当たらなかったが、出入り口付近に設置されているセンサーによって来客を知らせるメロディーが流れると、店の奥からめんどくさそうに出てきた店員がレジに立った。「えっと、対象商品はっと……あった。飲み物に、お菓子、パンか。特賞に応募するには……に、にじゅっポイント?!」商品1点につき1ポイント、つまりお菓子や飲み物で20個となると、かなりの荷物になる。持ち帰る分を考えるとそんなに量は買えないし、全て食品なのでカロリー的なものも気になったりする。「時間をかけて食べるのは良いけど、全部応募するにはいくつ買えば良いのよ……」別に初日に何十個と買わなくて良いのでは、という考えには至らない。前回の悔しさと、今回は当ててやるという意気込みや先に誰かに当てられたらという焦燥が彼女から正常な思考を奪っていた。当日夜中に行動を開始している時点ですでに正常ではないのだが。「全部飲み物にする?いやでもそれは重たいし、でも余計なもの食べるのもなぁ……」店の中をうろうろと歩き回りながら考え込む美琴。そこへ新たに客がやってきた。自動扉が開き、ぴんぽーんと間の抜けた音が店内に響いた。「なんで小雨で無風なのに傘の骨が折れるんだよ……はぁ、不幸だ……」客の名前は上条当麻。美琴の思い人であり、学園都市が誇る不幸の申し子である。少し雨に濡れているのか髪はしっとりとしていながらもいつものツンツンぶりは好調で、服はところどころ水の斑点ができていた。上条はふるふると頭を軽く降って店内に入る。「さーて、何買おうかな……っと、あれ、御坂?こんなとこで何してんだ?」「ふぇっ?!えっ、あっアンタはなんでこんな時間にこんなとこにいるのよ!」考え事をしていた美琴は思いもよらない人物に声をかけられ、思わず大声を出してしまう。「静かにしろって。俺はなんか寝つけなくて夜食でも買おうかと思ってたところだよ。大体こんな時間って、お前こそ夜中に一人でコンビニ来てどうしたんだよ?」「わ、私はこのコンビニに用事があって……」「用事?夜中に?」「今日からこの系列のコンビニでゲコ太フェアがあって、その、待ちきれなくて……」「あー、これか?対象商品を買って応募ってやつ」上条は手近にあったイベントPOPを見る。期間は今日から二週間。ネット上での応募ということだった。美琴の情熱は凄いというか、なんというか。感心とも呆れともいえないため息をつく。「オマエもほんと好きだなー。けど夜更かしはいけませんよ?って俺が言うのも何だけど。で、どれ買うんだ?俺は何が欲しいってのはないから対象のを買ってやるよ」「じゃ、じゃあお金出すからモノを持って帰ってくれない?」渡りに船とはこのことか。美琴は途端にキラキラとした笑顔で上条に擦り寄る。実のところポイントは欲しいが品物は要らないのである。要らないというか、応募の為に必要なポイントを貯めるには数が多すぎてどう考えても持ち帰れない。一方の上条は何やらみなぎっている美琴に若干後ずさりながら首を振った。「いや、そりゃ悪いからいいよ。」「いいの!私はポイントが欲しいだけなんだもん。ちょっと待ってて、適当に買ってくるから!」言うが早いか、買い物カゴを手に取ると次々に商品を入れていく。ポイントが手に入るならいくらでも買うと言わんばかりの勢いだ。「え、あの……御坂さん?そんなにたくさん要らないですの事よ?」「いいから遠慮しないの。極貧のアンタに食料はありがたいでしょ?」あっという間にカゴはいっぱいになり、うんしょよいしょと言いながらカウンターへ向かう美琴。店員はコンビニでカゴ満杯という大量購入に顔を引きつらせながらもひとつひとつレジに通していく。上条は食料を買うにあたってあまり見たことのない金額が表示されているのを某然と眺めていた。恐るべしお嬢様マネー。「よいしょ、っと。お待たせ。こんだけあればしばらく保つわよね」これまたコンビニではあまり見かけないぎゅうぎゅう詰めの大袋を手に美琴が戻って来る。しかも2つ。しかし美琴の顔はニコニコとしていた。上条に袋を渡し、レシートを見ながら何やらカタカタと操作をしている。「うおっ、重た……どんだけ買ったんだよ」「だって全部応募するにはたくさん必要だったんだもん。えっと……よし、ポイント加算っと。うーん、こういう抽選ってすぐ応募した方がよく当たるのかしら。今すぐ応募して、外れたらまた買い直しだし……」「外れたらまたこんだけ買うつもりか……。なあ、1ポイントで応募できるやつで試して見たらどうだ?」「そうね。じゃあこのクリアファイルセットに応募……っと。あちゃ、外れちゃった……」「そしたら、また時間置いてやってみろよ。こういうのって連続でやっても当たらなさそうなイメージがあるし」「うん、そうする……」少ししょんぼりと肩を落としている美琴に苦笑する上条。「一回外れたぐらいでしょげんなって。ポイントは貯まったんだろ?」「うん。たくさん買った甲斐あったわ。ありがとね」「いやいや、こちらこそありがとな。無駄遣いは感心しないけど、まあ助かったよ」ニカっと笑う上条。美琴は不意打ちの笑顔にぼんっと顔を赤くすると、それを隠すように顔を背け、わたわたと出入り口に向かう。「も、もう用事は済んだし、帰りましょ!夜も遅いしね!」「お前がそれを言うか。でも確かに遅いし、送ってくよ」「いいい、いいわよ!荷物重いでしょ」「いやー、でも夜中に一人で帰らせるってのも……ってそうだ、傘ダメになったんだった……」今度は上条がしょげる番だった。送っていくとは言ったものの、さしてきた傘はすでにその役目を果たせない状態にあり、かといってコンビニの傘は少々高くて手が出辛い。しかし夜食分の出費は浮いた訳だし、ここは買うしかないのか……傘を手にちょっとばかり決意を固めていると、美琴が顔を覗き込んできた。「アンタ傘ないの?もうついでだし傘も買ってくるわよ」「流石にそこまで世話になる訳にゃいかねえよ」「じゃあ送ってもらうお礼。ね、いいでしょ!」またもや言うが早いか上条の手から傘をひったくり再びレジへ向かう美琴。先ほどは照れ隠しで見送りを断ってしまったが、少しでも一緒にいられる理由があるならそれにすがりたかった。ゲコ太も大事だけれど、こんな幸せが訪れるなんてと緩む頬が抑えきれない。一方の上条はばつが悪そうに頭を掻いている。奢らせるつもりじゃなかったんだけどな、と小さく呟いた。「はい、傘。何変な顔してるの。気にしないでいいわよ、これくらい」「金額の問題じゃねえよ。まあ買っちまったもんはしょうがねえ。ありがとな」美琴から傘を受け取って店を出る。小雨は霧雨に変わっていたが、傘を刺さないとしっかり濡れてしまいそうだった。美琴も傘立てから傘を取り、開く。上条は大袋を2つ片手に持って傘をさした。新品の傘が細かい霧でみるみる濡れていく。「片手に2つって大変じゃない?1つ持とうか」「大丈夫だって。なんか今日のお前変だぞ。殊勝っていうか」「なっ……変って言い方はないでしょ!アンタが来てくれたから機嫌良かっただけよ!」「あ、ああ。悪かったよ、そんな怒んなよ……ん?」上条はハテと首を傾げる。美琴が喜んでいるのはゲコ太フェアのポイントではなかったか。今の美琴の言い方だと、期限が良い理由はゲコ太ではなく……?「あ、あぅ、違うの、ポイントが貯まって、アンタが来たから……じゃなかった、アンタが来たから私のポイントが貯まっ、て?いや、その、あの」「わかった、言いたいことはわかったから落ち着け御坂」一度は落ち着いた顔の熱がみるみると上がっていく。美琴が言い間違えたのも嘘ではないのだ。心の中では上条に会えた事が嬉しくてしょうがなかった。かと言ってそれを伝えたかったわけではない。口が滑ったというやつだ。しかしそれを思いっきり断言してしまって、訂正もうまくいかない。もう美琴のテンパり具合は最高潮だった。「だから、その……嬉しかったんだもん!うにゃああああああああ!」何一つ誤解(正確には誤解ではないが)を解く発言ができないまま、恥ずかしさのあまり美琴は走り出してしまう。もう何がなんだかわからない。それは上条にも当てはまることだった。「あ、おい御坂!?……ったく、送ってくっつったのに。しゃあねえ、帰るか……」呼び止めようとした時には既に美琴の姿は暗闇へ消えていった後だった。諦めて帰る事にし、上条は重たい袋を提げながらひょこひょこと自分の寮へと歩いていく。「ちゃんと家に着いたか、後で連絡だけしてみるか。あいつほんと落ち着きないな……」片手でくるくると傘を回しながらぼやく。傘についた水滴が遠心力で飛んでいく様を見ながら、美琴の言葉を思い出していた。『嬉しかったんだもん!』普通に考えると上条が来てくれたおかげでお互い美味しい思いができてありがたいという意味だろう。けれど上条はお礼を言われたこと以上にもう少し、胸が高揚する感じがした。どうしてだろうか。またもやハテと首を傾げるが、理由はわからなかった。「ま、今度礼でもするか」そう言うと上条はいつのまにか癖になった鼻歌を軽快に歌いながら、霧雨の街を歩いていった。 ローンソ×ラヴリーミトンフェア 2 今年も夏がやってきた。梅雨の時期はその名を返上すべきではと思うほど雨が少なく、いつから梅雨でいつから夏だと思っている間に天気予報は梅雨明けを知らせ、煌々と輝く太陽が髪を焼き服を蒸らし肌を焦がす季節になった。道行く人は帽子をかぶったり日傘をさしたりして陽射しから身を隠したり、また団扇や扇子、学生ならではの下敷きなどで風を起こし少しでも熱を逃がそうとしている。中には冷たい飲み物やアイスなどで身体を冷やしているものもいるだろうか。時刻は夕方に差し掛かってはいるものの、まだまだ太陽の勢力は強く夜になってその姿を隠してからも蒸し暑くなることが容易に予想される。御坂美琴はそんな中汗をかきつつも日傘をさしたり何かで扇いだりはせずに、時間が経つにつれ色濃くなる太陽を一人背にしていた。普段から美琴は授業が終わった後まっすぐ寮に帰ることは少ないのだが、今日も例に洩れず街を当て所なくさまよっていた。今は河原沿いの道をぼんやりと歩いている。河川敷が広く公園やスポーツコートなども設けられているこの辺りは、河原沿いということで見晴らしがきく事に加え芝生が養生されていてなんとも景観が良い。芝生用のスプリンクラーがくるくると散水し、また川の水もさらさらと流れ、それらの気化熱のおかげで夏真っ盛りの日中でも体感温度はやや低く、街中と比べると快適であった。しかしそんな比較的過ごしやすい環境の中でも、美琴の気分は少しよろしくない。それは気候のせいではなく、具体的に言うならがっかりという言葉が当てはまるような雰囲気だった。理由は、数ヶ月前にとあるコンビニチェーンで行われたフェア。それはその名を聞けば一も二もなく飛びつく、美琴の大好きなキャラクターシリーズ『ラヴリーミトン』のフェアで賞品がひとつも当たらなかったことに起因する。フェアというのは販売店(店舗の多さからコンビニが主である)と食品メーカー、版権企業とのコラボ企画で、商品の販促などの目的で人気のマスコットキャラクターを用いて行われるものである。今回は対象商品を買うとポイントが貰えて、そのポイントを使ってキャラクターグッズを当てるという方法が取られた。抽選ではあるがそのキャラクターが好きな人はグッズ欲しさに商品を購入するし、賞品によっては応募に必要なポイントが高いこともある。そうなると売り上げも上がるという、よくある企画だった。美琴は開催当日から意気込んでポイントを集めまくったり、フェアに応募しない人からもポイントを貰ったりして挑戦したのだが、結果としては1ポイントから応募できるストラップすら当たらなかったのだった。それだけならクジ運がない、またの機会に頑張ろうと思えたのだが、ここにくる前に知り合いの少女に会った時、その少女が持っているものが更に美琴の精神的ダメージに追い討ちをかけた。彼女は小学生低学年程度で、とある事情で一時的に風紀委員として活動した時に知り合った。今でも街中で見かけると挨拶をしに声をかけるくらいには仲が良い。そうして今日も服飾店をぶらついていた時に声をかけられたのだった。美琴は愛らしい笑顔の少女が自分を慕って駆け寄ってくるのが嬉しくなると同時に、その小さな腕で抱えているものを見て固まってしまった。それは、美琴が渇望してやまないゲコ太のビッグぬいぐるみ。フェアの特賞賞品だった。会話の中でさりげなく触らせてもらおうかとも思ったが、美琴の年齢でゲコ太が好きと言うと周りの友人たちにはいつもひやかされることから、何となく遠慮してしまいそのまま言い出せずに少女と別れた。そして若干後悔しつつ河川敷をとぼとぼと歩いている、という訳だ。「はー、そのぬいぐるみどうしたの?とか言えたのになあ……」沈んだ声が蒸せた空気に溶けていく。時折吹く風は水辺の冷気を纏って身体を撫でていき、ため息ごと熱気を飛ばしてくれるものの、まだ気分は晴れない。「でもなあ、触ったら触ったで絶対欲しくなってもっとモヤモヤするんだろうしなあ……」ちなみに、美琴は割と本気でヘコんでいる。自分に当たらないということは当然他に応募した誰かに当たったという事だ。それがどこか知らない誰かの話なら知らぬが仏で良かったのだが。「なんか、知ってる人が持ってるとわかるとちょっと羨ましいなーって思っちゃうのよねー。こういうのって」サミシイ独り言は続く。そのうち土手から河川敷に続く階段を下り、その途中でスプリンクラーが作動していない芝生の乾いた場所を選んで腰を下ろす。そこは土手の中ほどで斜めになっていて座りやすく、ふかふかと心地よい感触が太ももに当たる。気持ちよくなって仰向けにごろんと寝転んでみた。太陽はすでに傾き始めてしばらく経つので太陽の方を向かなければそれほど眩しくはない。青く広がる空は綿雲をいくつか浮かばせて、ゆっくりと流れていく。美琴は歩き続けた足を休ませるために、しばらくここにいることにした。「かと言って、オークションとかで買うのもちょっと違う気がするのよね。しかもだいたい高いしさー」惰性でぼやいているような気もするが、意味はなくても声に出せば気は紛れるものだ。けれどぼやくネタもなくなってきて、ふと顔を土手の方へ向けると、スプリンクラーがしぱしぱと小気味よい音を立てて放水しているのが見えた。水滴のついた芝生がなんとも瑞々しく美しい。飛沫となった水も陽の光を反射してきらきらと輝きまるで宝石のようだ。しかし、雨が少なかったせいだろうか。以前この辺を通ったときはスプリンクラーなどなかったような気がする。学園都市の園芸用水、と考えると何だか発育が良さそうな気もしてくる。ただ植物にとって恵みの水は何も自然のものでなくても良い。人工的であってもこうして青々と生い茂る芝生は目に優しく、また河川敷で遊ぶ子供達が転んでも小石や砂利などから皮膚を守り怪我をしにくくもしてくれる。視界の端でサッカーボールを追いかけている子供が転んだのが見えた。友達が心配して駆け寄るも、転んだ子供はすぐに立ち上がって友達の間をすり抜け、またボールを蹴り始めた。美琴はこうして地面に近い視点で意識をしないと気付けない小さな自然に思わずぽつりと呟く。「綺麗だな……」人というのは美しい自然に接すると言葉を失うことがある。山頂からの日の出や、海で遠く見やる水平線の日没。北極のオーロラやどこまでも続く草原などの大自然でなくともそういうことがあるのだな、と美琴は思う。今までの沈んだ気分がだいぶ軽くなって、身体もなんだか余計な力が抜けた気がする。それでも景品だ賞品だなんてちっぽけな悩み……とはやはり言い切れないけれど、気持ち良い芝生のクッションに包まれながら、少しだけ憂鬱な気分を忘れることができた。スプリンクラーが作る水飛沫。放物線を描いて撒き散らされる水滴は地面や空気に、時には水滴同士がぶつかりやがて細かい粒子となって空中に舞う。それに太陽の光が吸われて七色の軌跡を描いて……「虹だ……」寝転がっているとどうしてもウトウトと意識が浮ついて、声も出ずに吐息だけで小さく言葉を紡ぐ。久しく虹なんて見ていなかった。空の上に嫌いなものがあったから。今はもうない。だからもう空を睨みつけることもなくなった。なんだっけ、よくある、言い伝え……そう、虹のふもとには…………考えながらぼんやりと虹の輪郭を目で辿る。それは美琴の頭上、土手に沿っている道にかかっていて……そこまできて美琴は視線を止める。誰かが歩いているのが見えたからだ。少しずつ焦点が定まってくる。誰かは立ち止まったようだった。あの学生鞄を怠そうに肩にひっかけている、ツンツン頭の少年は……「おー、御坂。なんつーカッコしてんだ。顔逆さまだぞ」名前を呼ばれ思考が現実に追いついた瞬間、美琴は顔を真っ赤にしてがばっと起き上がった。少年は上条当麻だった。上条は年頃の女の子があられもない格好をしていたので少々呆れたような顔をしている。考えてみればこちらからも逆さまに見えているのだから当然といえば当然なのだが、そんなに喉を反らしていたとは美琴自身思っていなかったので何とも恥ずかしい。急いで髪を整え、風でめくれたスカートを戻し何事もないような顔で芝生に座り直す。上条は土手で寝転んでいるのが美琴だとは知らず、誰か寝てるな、くらいに思っていたのだが、近づくにつれその人がこちらを見ていることに気が付いた。そうして目を凝らしつつ近づいていくと、その人は短めな亜麻色の髪とブレザーの制服にルーズソックスという見慣れた格好の少女、御坂美琴だったのだ。上条は例のごとく補習の帰りで、特に美琴を探して歩いていたという訳ではないのだが、出会った時にしておきたい用事もあったのでこれ幸いと声をかけた、という経緯だ。「そりゃあこの辺は涼しいし寝っ転ぶと気持ち良さそうだけどな、あんまりおおっぴろげになるなよ」上条は階段をとてとてと降りて美琴と同じように途中で芝生へと足を踏み入れた。わしわしと音を立てながら美琴の元へと歩いていくが、美琴がうっさい!と反論しようとした瞬間濡れてもいない芝生で足を滑らせて倒れたかと思うと、ごろごろと土手を転がり落ちて行った。「う、へえっ!?ぎゃあああああぁぁぁぁぁ……」それはいっそ清々しいほどの見事な転がりようで、ローリング上条は平坦な河川敷に到着してようやくその回転を止めた。極めつけにそこはスプリンクラーの作動している場所だったらしく、また時間によって放水の時間が変わるようで、うつ伏せに倒れている上条の隣で止まっていたスプリンクラーがしぱしぱと水を撒き散らし始めた。それはびたびたと遠慮なく上条の背中を濡らしていく。美琴はその淀みない不幸の連続を目で追うことしかできずにあんぐりと口を開けていた。しばらくはぴくりとも動かなかった上条だが、ワイシャツ全体がたっぷり水を吸った頃に何やらふるふると震えながら起き上がり、平然とした様子ですたすたと美琴の方へとやってきた。ちょっぴり涙目な気がするのは見ていないふりをしてあげた方が良いのだろうか。「……何やってんの、アンタ」「そんな呆れた目で見るなよ。涼しくなって何よりだぞ」「それはポジティブシンキング、と呼んでいいのかしら……」しかしこれ以上突っつくのも可哀想な気がして、隣にどしっと座る上条に別の話題をもちかけた。「ところで、わざわざここまでやってくるってことはなんか用?」「ああ、そうだった。これやるよ」上条はポケットから財布を取り出すと、カードらしきものを美琴に渡した。美琴への用事というのはこれだ。わざわざ呼び出すほどのことでも無いので出会った時に渡そうと思っていたものだった。美琴は突然の申し出に不思議そうな顔をしていたが、カードを見るなり目を大きく見開いた。「こっ、これゲコ太フェアの賞品じゃない!なんでアンタが持ってんのよ!?」美琴が手にしているのはプリペイドカードで、ラヴリーミトンのキャラクターがファンシーかつキュートに描かれている。それは先日のフェアに応募して外れてしまった人の中からさらに抽選されて当たるというもので、当選確率で言うと、ポイントで応募できる賞品よりはこちらの方が低いのだ。また、その場で当落がわかるものでは無いので当たると嬉しさも倍増する。ちなみに先程一人でぼやいていた美琴は、このカードの発送時期を過ぎても手元には何も届かなかったことから、更に落胆の色を強くしていたのだった。そんな美琴の事情などつゆ知らず、上条は少しムッとしながら答えた。「なんでって、当たったからに決まってんだろ。フェア中に飲み物買ったら1ポイントついてきたから、せっかくだしと思ってストラップに応募してみたけどダメだった。でもなんかWチャンスに当選しましたとかいってこないだ送られてきたのがコレ。もしかして、要らなかったか?」美琴のまさかアンタが当たる訳ないと言わんばかりの態度に、上条さんだってたまにはラッキーなことくらいあるんですよ、と若干拗ね気味に口を尖らせカードを取り上げようとする。「う、ううん!欲しい!すっごく欲しい!ありがとう!」慌てた美琴はカードを上条の手ごと両手でがしっと掴み、輝くという表現がぴったりな満面の笑みを浮かべた。あまりにも嬉しそうに笑う美琴に、なんだか照れ臭くなった上条は少し顔を赤らめてふいとそっぽを向いた。「まあ、喜んでくれたならいいよ。これについては食の面でだいぶ世話になったしな」言いながら逸らした視線を掴まれた手に持っていく。上条の右手はカードをつまんだまま美琴の両手にしっかりと握られていて、自分の殴りダコのある骨ばった手と比べて随分と白くて華奢だな、なんて思った。しかしあまり女の子と手をつなぐ(この場合だと掴まれているという状態だが、どちらにしろ手と手が触れるような)機会がほとんどない上条は、その柔らかな感触と人肌特有のぬくもりがあまり慣れないものでかちこちと背筋をこわばらせてしまう。がっちりとホールドされているものだから、何気なく離すということもできそうにない。「あっ!」そうして上条が一人でどぎまぎしていると、ふいに美琴が声をあげた。特にやましいことをしたり考えたりなどしていないのだが、なぜだかびくっと体が震えた。「このカード、使ってないじゃない!」美琴はプリペイドカードが一度も使われていないことに気付く。こういったカードは端の方に小さく目安の額面がいくつか印字されていて、一度でも使用すると残額に応じてパンチ穴が開くようになっている。使い切ると0と印字されたところに穴が開き、使用済みとなる。要らなくなったカードはその場で店に回収してもらえるが、カードの柄が気に入っていて廃棄したくない時は持ち帰ることもできる。傷一つないまっさらなカードを目の前にして、些細な金額とはいえ万年金欠な上条にとっては家計の足しになるのではないかと思う美琴は、少し申し訳ない気持ちになる。「い、いいの?もらっちゃって」上条は眉を下げて伺うように顔を覗き込んでくる美琴に、どぎまぎしてた事はバレてないのか、とかコイツのこんな顔って珍しいな、とか上目遣いでちょっとしおらしげに見えるな、とか考えてしまって、またどきどきしてしまう。カードについてはもちろん今更あげません、なんて言うつもりはない。「あー、いや、うん。使おうかと思ったんだけど、確かそういうのって穴とか開けたくないんじゃないのか。コレクター精神ってやつ?」言いながら首を傾げる上条。よくわからないが、青ピがそんなことを言っていた気がする。好きなもの、中でもレアなものは喉から手が出るほど欲しいし、また手に入れたら品物だけでなく外箱や付属の説明書などもできるだけ綺麗なままで保存しておきたい、という心理があるのだとか。ならば普段からゲコ太ゲコ太と言っている美琴にもそれは当てはまって、できれば傷が付いていない方が喜ぶのではないかと思ったのだった。「とにかく気にすんなよ。そ、そんくらいじゃあ上条さんの財布は痛まない……ですの事よ?」「ちょっとどもったり詰まったりしてんじゃないの」「そこは聞いてないふりしてくれよ!」痛いところを突かれてちょっとしょげる上条。情けない顔でぶつぶつと愚痴る横顔がなんだかとても可愛らしく見えて、美琴はかすかに微笑む。普段は子供っぽい趣味だとか良さがわからないとか批判めいた事を言っているのに、人がより喜ぶなら躊躇わずに自分の事よりそちらを選んでしまうところが「たまんないのよね……」「……ん、何か言ったか?」「えっ?うっ、ううん、なんでもない!」今度は美琴がうろたえる番だった。まさか声に出ていたとは思っておらず、ぶんぶんと音がなりそうなほど首と両手を降って否定する。上条はその拍子に離された右手とつまみ上げられたままのカードを見て何やら考えている様子だったが、美琴はそれに気付かずにどうやら先程の言葉は聞かれていなさそうで良かったーと安堵のため息をついた。「ま、いいわ。お礼にご飯でも奢ったげる。もちろん、額面以上は出すわ」「え……ああ、うん。って、ええ!?」「当然これはいただきよ!ああゲコ太、綺麗に飾ったげるからね!」「おい、ちょっ……」美琴は上条の手から素早くカードを奪い取って立ち上がると、それを天に掲げてくるくると回って、愛おしそうに頬ずりをした後とても大事そうに財布にしまった。上条は話半分で適当に返事をしていたが、美琴の言葉に驚いて我に帰った。そもそもこれはフェアのポイントを貯める目的とはいえ山のように食品をもらった事に対するお礼なのだから、お礼のお礼など必要はない。けれど美琴は話を聞こうともせず、座ったままの上条の手をとって歩き出そうとする。「さ、どこ行く?懐石?ファミレス?フランス料理?どこでもいいわよー」「どわっ、引っ張るな!ってか御坂さん、真ん中以外予算とジャンルがおかしいです!」「何でもいいでしょ!つべこべ言わずについてくる!」「俺まだ服濡れてんだけど!ねえ聞いてる!?」「そのうち乾くわよ!涼しくて何より!」「これっぽっちも止まる気ねえ!ああもう、ふこうだあーっ!」よく晴れた日の夕暮れ時、一組の男女がばたばたと街を駆けていく。少女の見た虹のふもとには何があって、今日の少年は幸か不幸か。それは夏空に光る太陽だけが知っているのかもしれない。
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もしも美琴が上条の妹だったら 2月の夜。辺りはかなり冷え込んでいた。上条はとある夜道を歩いていた。「あー寒い…ん?なんだあれ」目の前には不良らしき人が数人、少女を囲んでいた。要するにたちが悪いナンパだ。「ねぇ俺たちと一緒に遊ばない?」「…」「帰りはいつになるかわかんねぇけどな」ぎゃははと大笑いする。「すみませーん、いやー連れが迷惑かけましたー…ってえぇ!?美琴!?」少女は上条美琴…上条当麻の妹だった。学園都市第3位、常盤台のエースと言われ、無能力の上条とはまさに真逆の存在だった。「え?なんでお兄ちゃんが!?」「いいから逃げるぞ!」美琴の手を引っ張り、全力疾走する。「って待てよ!テメェら!」不良も追っかけてくる。しばらく走り続け、人がいない河原へ出る。途中で美琴が我慢できなくなり、不良に電撃を撒き散らし今に至る。「はぁはぁ…お前ちゃんと手加減したよな…」「はぁはぁ…え?あぁ、ちゃんと手加減したわよ」息切れしながら答える。「そんで美琴…、また夜遊びか?」美琴はよく門限を破って夜道を歩きまわる。普通の女の子なら不良に絡まれたりして危ないのだが美琴は例外だ。いくら不良に絡まれても美琴は学園都市第3位の超電磁砲だ。たかが無能力者の不良ごときに手こずることはない。「いいじゃない、私の勝手でしょ」「まぁ一応お前は俺の妹だ。妹の心配して悪いか?」「うっ…わかったわよ、程々にするわ」何故か頬が赤く染まる。だが暗いので上条にはわからない。「あぁ、じゃぁそろそろ帰るか、一応寮まで送ってやるよ、もう暗いし」めんどくさそうに頭をポリポリ掻く。「あ、ありがとう…」あれから兄の上条と別れ、白井を呼び出しテレポートを使いどうにか寮監にばれずに帰ることができた。「お姉さまもあまりお兄様の迷惑かけちゃいけませんわよ?」「はいはい、わかってるわかってる」いつも言われることなのでそこまで気にとめない。「はぁ、今日は一体どうしましたの?」念のために美琴に問いかける。「あぁ、夜道歩いていたら馬鹿な不良どもに絡まれたのよ。何かしてきたら焼いてやろうかと思ったんだけどあの馬鹿兄貴が助けに来たのよ」少し安堵しているように話す。「流石お姉さまのお兄様ですわ!お姉さまの貞操をちゃんと守って…黒子も、黒子も負けていられませんわ!」うへへと笑い、ハイテンションになる。「ちょっと黒子!もう遅いんだから静かにしなさい!てか貞操って何よ!」しばらくぎゃぁぎゃぁ騒ぎ、結局寝不足になった。2月13日 PM1時―――とある高校授業が終わり昼食の時間となっていた。「明日はバレンタインやでカミやん?妹からチョコ貰うん?」青髪がやけにテンション高めに話しかけてくる。「さぁな?アイツ同居人がいろいろ大変だって言ってたぞ」「妹からチョコ貰えるなんて幸せぜよ、カミやん」「俺は土御門みたいにシスコンじゃないからあまり実感湧かねぇよ」めんどくさそうに話す。毎年妹の美琴からチョコを貰うのだが、何故かそのあと不機嫌になる。(はぁ…毎年こんな調子じゃ体持たないぞ…)周りから見れば仲が良い、ごく普通の兄妹だ。だがケンカになるとそれが一変する。妹は超能力者、超電磁砲だ。あらゆる電撃を使い攻撃してくる。普通の人ならやられるが、上条には幻想殺しが宿っている。あらゆる電撃が来ようが右手に触れれば打ち消せる。だが怖いものは怖い。「おーいカミやん?」 「大丈夫かにゃー?」目の前で手を振っても反応しない。「電撃って怖いよなぁ…」「「???」」不思議そうに顔を見合わせる2人。それからしばらく上条はボーっとしていた。―PM17時30分学校から下校し、ついでにスーパーで買い物を済ませた所だ。「ふふふーん、ちょうどタイムセールしてあって助かったぜ。これで上条さんは一週間乗り切れます!」周りから変な目で見られてるが、機嫌が良いのでまったく気にならない。歩いていると目の前に空き缶がある。「今日の俺は一味、いや二味も違うぜ!こんな空き缶如きどうってことない!」ジャンプで華麗に避ける。「残念だったな神様!今日の上条さんは珍しくついてる…ちょっ!?なんで着地地点にバナナの皮が!?」うおおおおと掛け声を挙げ空中で走るももう間に合わない。見事にバナナの皮を踏み円を描くようにこける。「痛てぇ…あぁやっぱ不幸だ…ん?」ビニール袋からなにかが潰れたような音がした。取り出してみると卵が全滅していた。「ああ…貴重な卵が…不幸だ―!!」思いっきり叫ぶ。見ていた人も哀れむような目で見ている。すると何処からか声が聞こえた。「ちょ、ちょっと馬鹿!なに道端で尻もちついて叫んでるのよ!」「あ?なんだ美琴か…いつものごとく不幸な上条さんですよー」なにやらいじけむしになっている。「あぁもうだらしない!立ちなさいよ!まったく妹の私まで恥ずかしいわ」美琴の手をとり、立ち上がる。「卵…貴重な卵が…」念仏のようにブツブツ唱える。「はぁ…情けない…私が卵かってあげるからそれで我慢しなさい」上条にとっては今の一言は天使の声に聞こえた。実は今までにも何度か美琴に経済面、生活面などで助けられたことがある。「いいの?」「いいわよ別に」「まじかよ!美琴ありがとう!こんな素晴らしい妹がいて上条さんは幸せですよ!」いつものことなのだが美琴も兄に喜ばれるとうれしい。「んじゃスーパー行くわよ」「おう」二人で来た道を引き返しスーパーへと向かう。―PM18時00分スーパーで卵を買って帰宅することにした。タイムセールが終わっていて少し高めの卵を買うことになったが美琴がおごってくれた。「いやー美琴ありがとうな」卵も手に入りご機嫌だ。「お礼はいいって、兄妹でしょ?」ここまで似てない兄妹があっていいのか?と時々思ってしまうくらい出来が良い妹だ。一緒にいると美琴の友達が『彼氏?』とか訪ねてきたりする。「あぁ、てか晩飯どうしよっかな」しばらく考え込む。すると美琴が声を掛けてきた。「ねぇ、じゃぁ今日は私が料理作ってあげようか?」「いや流石にそれは悪いって、しかももう暗いし」一応同居人にも迷惑がかかるんじゃないかという考慮だ。「いいの、たまには私の料理食べさせてあげるんだから、…もしかして嫌?」妹の美琴は昔から涙腺操作ができるらしい。いつもこの目で上条はやられる。(ううう反則だ、これは反則だ…)「あぁ、わかったわかった料理頼む。え?なんでまだその目なの?お願いその目やめて!」美琴は昔から人懐っこく喧嘩っ早い。一緒にいるとよくわかるのだが何より涙もろい。喧嘩で負けて泣いたり、ドラマや映画を見て泣いたりする。今だ上条も扱いに慣れてない。「あはは…じゃぁ行きましょ(制御間違えて本当に泣くかと思った…)」美琴は美琴で内心ひやひやしていた。「あ、あぁ」美琴に引っ張られ歩き始める。―PM18時25分ようやく寮につく。すると隣人の土御門に会い『相変わらず仲がいい兄妹だにゃー』と言われた。本人はそこまで自覚はないのだが美琴が恥ずかしがり、何故か上条に電撃を放つ。「ちょッ!?美琴電撃打つのやめて!上条さん死んじゃいますから!」隣で土御門が笑っている。何故かぶっ飛ばしたくなるがその気持ちを抑えた。「まぁカミやん健戦を祈るぜい」逃げ出すように部屋に入る。一応幻想殺しで美琴の電撃を打ち消し部屋に入る。「卵しまってと…美琴?どうしたんだ何か顔赤いぞ」指摘されたのも関わらず反応がない。数秒後にハッっとした様に否定する。「べ、別に赤くなんかないわよ!それより料理よ、せっかく卵かったんだからオムライスでいい?あと材料足りてる?」「え、あぁいいぞ。材料は足りるから問題ないけどな、いやー楽しみだなー」ベッドに座りテレビをつける。その姿を見てクスッっと笑う。これが平和な日常なのかなと考える。「あれエプロンは?」制服が汚れるので一応エプロンが必要らしい。「ん?そこの棚の中になかったっけ?」棚を開けて探すが見つからない。「ないわよ?」「ちょっと待ってろ。あれここら辺に入れた記憶が…、あったあったこれでいいか?」「うん、あいがとう」エプロンを受け取りエプロンを着る。「ん?どうしたの」美琴が上条の視線に気づき問いかける。しかし上条は何も言わない。いやなんでも と言って再びベッドに座る。(ううう、言えない…『エプロン姿が似合ってる』とか絶対言えない…)ついには頭を抱え込む。年頃の女の子のエプロン姿は純情少年にはすさましい破壊力なのだ。数十分後ようやく料理ができた。皿を運びテーブルまで持っていく。「なんかここまで任せっぱなしだとすごく罪悪感というかなんというか…」自分だけ楽な気がして何かやろうとするも美琴に止められる。そして美琴、上条が座る。すると美琴はオムライスの上にケチャップで何かを書いている。カエル…ゲコ太だ。「お前まだゲコ太好きだったんだな」ちょっと呆れたような口調で言う。「な、いいじゃない!人によって趣味趣向はそれぞれでしょ!」頬を赤く染め叫ぶ。「あーはいはい。じゃぁ、美琴さん、上条さんにも何か書いて下しあ」美琴にオムライスを渡す。「はいはい、ふふ~ん♪」鼻歌交じりで何かを書いている。「あ、えーっと、その、なんだ?またゲコ太?」「ピョン子よ馬鹿兄貴」よくみるとリボンが書いてあった。「まぁ、ありがとな。じゃあ―――」「「いただきます」」まずは上条が一口。「美味しい…?」一応美琴はオムライスを作るのは初めてだったので美味しくできてるか自信がない。「はぁ!?なにこのオムライス!?すごいふわふわなんですけど!美味い、すげぇ美味い!」上条の今まで食べたオムライスの中で一番おいしかった。それを聞いて安堵する。大切な人に食べてもらい、美味しいと言われた。それでもう満足だ。「いやーお前料理上達したな。あとでレシピとか教えてくれ」満足そうに話す上条を見て嬉しそうに笑う。「ふふ、料理ってね、レシピや食材も大切だけど一番大事なのは何かわかる?」「???えっと…愛とか…?」いきなり言われても答えれないのでなんとなく答える。ちょっと唐突すぎたかなと思う。「まぁ正解よ。大事なのは気持ち。大切な人のために一生懸命作った料理って美味しくなるのよ」「気持ちねぇ…じゃぁこの料理にはお前の気持ちがこもった料理なワケか、ありがとな美琴」「え、あ、どういたしまして…」恥ずかしいのか顔が赤くなってるのがわかる。上条は無意識に女心を揺さぶるようなことを言う。もちろん妹でも例外ではない。(お兄ちゃんって自覚がないから罪よね…)PM19時30分晩飯を食べ終わる。時刻はもう7時半だ。もうバスは走っていない。美琴を学生寮に送るために外へ出た。暗い夜道を歩く。といっても店の電気、蛍光灯なので十分明るいわけだが。「あ、そうそう美琴、ちょっと寄り道していいか?」「え、別にいいけど…何処に行くの?」一応上条に尋ねる。「ん?そこの店」指を差されたほうを見ると、クリスマスでもないのにイルミネーションが付けてある小さい店があった。「見たことない店ね…」「まぁ俺は2回目なんだけど…ちょっとここで待っててくれ」そういって店へと走り出す。「うう、寒い…」無理もないが2月の夜だ。今の気温はおよそ5度くらいだろう。美琴は常盤台の制服にマフラーだ。何時間もたっていると流石に風邪を引いてしまう。「あの馬鹿兄貴…女の子を一人で寒い所で待たせるんじゃないわよ…」そんなことを愚痴ってると声が聞こえた。「いや悪い、待たせたな、寒かっただろ?」「べ、別に寒くないわよ」美琴の性格をよく理解してるのでただの強がりだとわかった。上条の顔が少しにやけてるのが分かり話題を変えようとする。「で?何買ったのよ?」不機嫌そうに尋ねる。「あぁコレな」ビニール袋の中にはラッピングしてある手の大きさ程の袋があった。「美琴プレゼントだ。いや正確に言うと今日のお礼かな」「私に…くれるの?」なにやらモゾモゾしている嬉しいのかなと考える。「お前以外にあげる奴いねぇよ。あと開けていいぞ」ラッピングしているのを丁寧にはがし、袋を開ける。中にはそう、手袋が入っていた。「お前がどんな奴が好きかわからなくて困ったもんだ。まぁそれはどうでもいいんだけどさ。「え、どうして?」「どうしてって…言っただろお礼だって。あとお前の手を見たら分かったんだけどさ。寒いなら寒いって言えよ。隠さなくてもわかるんだよ、俺はお前の兄だ」隠し事するとすぐわかるのは唯一俺とおまえが似てるところだけどな と言い頭を掻く。「うん…あのさ、手袋、はめてもいい?」「あぁいいぞ」「似合うかな?」「あぁ似合ってるよ」それを聞いて幸せそうに笑う。しばらく歩いていると学生寮の近くまで来ていた。「あ、もうここでいいよ。ありがとねお兄ちゃん」笑みを浮かべ手を振りながら寮へ走っていく。(もしお兄ちゃんが兄妹じゃなかったら私…お兄ちゃんと…)完